前回は、他の職種と比べて介護の仕事の給与が低いのか、高いのか、残業時間と給与の関係はどうなっているのかをご紹介しました。
今回は、勤続年数や資格という切り口から、介護の仕事の給与について探っていきます。
介護業界の歴史は浅い。だからこそ、勤続年数が少なく、給与も少ない?
労働時間数以外にも、キャリアやスキルで給与額は変わってきますよね。今度は長期的な視点でみてみましょう。まず、初任給を比較してみると、男女とも全職種の平均より少し低くなっています(下の表)。この時点で見ると介護の仕事は給料が低いという世間一般の見方とは一致するようです。
では、その後、働き続けると給与額はどのように変化していくのでしょうか。
下の表は職種別に、勤続年数と賃金をまとめたものです。
前回ピックアップした27職種で、見比べていきます。
「勤続年数」は賃金をもらったところに務めていた年数のことで、社会人経験の長さではありません。
全職種の平均は11年、最も短いのが理学療法士・作業療法士で4.8年、最も長いのが電車運転士で19.4年です。ここからすると介護の仕事は比較的、勤続年数が短いことが分かります。
一方、賃金の平均は31.7万円。パイロット(航空機操縦士)のような高額の職種が、少ないながらも高い賃金で全体を引き上げています。最も低いのはミシン縫製工で15.8万円。しかし、ほとんどの職種は概ね20〜40万円の間に入ります。介護業界の職種は22~26万円なので、どちらかというと低い部類に入っているのは確かでしょう。
ただし、当然のことながら、職種によって仕事上求められる知識や技能の水準も違えば、業界の構造も違います。
さらに勤続年数と給与の関係を見てみると、全般に勤続年数が長いほど賃金が高い傾向があります。
歴史ある業界では、勤続年数が長くなるにつれ、定期昇給やベースアップで給与があがってきた、という背景もあります。しかし、介護業界は、まだ新しい業界。介護保険制度ができたのは2000年で、まだ15年しかたっていません。他の業界に比べ勤続年数が長い人は限られています。これが介護業界の平均給与が低い一つの要因にもなっていそうです。
では、これから何年もたてばみんな昇給していくのか? というと、そうとも限りません。
日本の年功序列型の賃金制度は変わりつつあり、定期昇給やベースアップがない企業や、業界も増えているからです。介護の仕事についても、長く勤めれば給与額が自然とアップする、とはならないかもしれません。
保有資格での給与の違いに注目!
初任給も低く、勤続年数に伴う昇給も期待できないとなると、介護の仕事では、もはや給与アップの望みはないのでしょうか? …もちろん、そんなことはありません!
最後に
「資格」と「給与」の関係をみていきましょう。
下の表は、介護業界の保有資格ごとの平均実賃金と、勤続年数の一覧です。
(クリックで拡大)
上から、実賃金(残業代などの諸手当を含む給与額)が低い順に並んでいます。
無資格の時は月給が20万円に満たないものの、上位の資格を取得するにつれ、徐々に給与がアップしていることがわかると思います。
また、上位の資格取得者になるにつれ、勤続年数も伸びています。これは、資格の受験条件に実務経験年数が含まれることが多いためだと思われます。
なお、一番下の看護師・准看護師は医療の資格です。勤続年数が5.2年と、介護福祉士や介護支援専門員よりも短いにも関わらず、実賃金では高くなっています。
では、なぜ、介護の資格保有者は給与が高いのでしょう? 知識やスキルがあることで、責任ある役職につきやすい、評価されやすいという面もあるでしょう。ですが、もっとも大きいのは資格手当です。
求人情報を見るとわかりますが、資格保有者には資格手当がつくことが多いのです。資格手当があれば、全く同じ施設の介護職をしていたとしても、無資格者より給与がアップします。
資格を取得することで、ほぼ確実に給与があがっていく、というのはある意味、とても安定性の高い仕事ではないでしょうか。
しかも、介護業界では、介護の質を向上するために、多くの事業者が従業員の資格取得を支援。資格試験の費用を負担したり、労働時間中の研修を融通するなどしています。
一度取得した資格は、原則、なくなることはありません。介護業界は、成果主義を貫く企業のように、業績と連動して給与を大幅にアップすることはなかなかありません。しかし逆に、減給をされたり、リストラされたりすることも少ない仕事です。
また、資格を取得していれば、プロの介護知識を持つ専門職として、全国どこでも、何歳になっても通用します。なぜなら介護は、お年寄りがいる場所であれば、日本中どこでも必ず発生する仕事だからです。
前回お伝えした通り、介護は残業が少ないこともあり、他の業界と比べ給与額は低めです。しかし、仕事内容や勤務形態、将来性、などを考えると、介護の仕事はむしろ、安定した一生ものの仕事と言えるのではないでしょうか?
次回は、働きかたによる賃金の違いについて、もう少し詳しくみていきます。