16歳のアルバイトから正職員を経て12年間も鮮魚店で勤務したTさん。そこから一転、介護職を続けてきた理由は?転職のきっかけや転職時の様子をインタビューしました。
お話を伺った介護士さん
■今、どんな仕事をしていますか?
訪問介護事業所のマネージャー的な役割である「サービス提供責任者(サ責)」として勤務し、4カ月が過ぎたところです。
うちの事業所は、サービス提供責任者はなるべく現場に出ず、ヘルパーのスケジュール管理や提出書類の作成、利用者の獲得やヘルパーの採用などを行っています。
■仕事のスケジュールを教えてください。
基本的に事務所でのデスクワークが多いです。
そうはいっても、定期的に利用者さんのモニタリングのために訪問に行くので、デスクワークと外出が半々くらいです。
<1日のスケジュール>
8:30 朝のミーティング。6人いるサービス提供責任者の情報共有、常勤ヘルパーとの申し送り。
9:00 提出書類作成、電話対応などであっという間に時間が過ぎる。
12:00~13:00 昼休み。1時間しっかり体を休められるのがありがたい。
13:00~ 利用者開拓のための営業、利用者モニタリングなどのために外出することも多い。
17:30 退社。残業はあっても20~30分程度。定時に帰れ、夜勤もないので体力に余裕をもたせて働くことができる。
■以前はどんな仕事をしていましたか?
高校在学中から鮮魚店でアルバイトを始め、音楽の専門学校に通うようになっても、そのままアルバイトを続けました。ロックシンガーになる夢を追って定職には就かず、鮮魚店のアルバイトを続けながら活動していましたが、24歳のときに夢をあきらめ、アルバイトをしていた鮮魚店で正社員として働くようになりました。
以後は店の利益管理や売上計算、従業員管理などを任されていました。
■介護業界に転職することになったきっかけは?
鮮魚店の仕事は始発の電車に乗って通勤し、終電近くまで働くほど忙しかったんです。店長として店を任され、売り上げ目標を達成するまでなかなか帰れない。時には目標をクリアするためにポケットマネーを投入することもありました。心身ともに疲れ切って、退職してしまったんですよね。
でも、早く働き始めないと暮らしていけないと思い、単発の仕事で食いつないでいたところ、友人の父親に「介護職なら正社員になれるし、資格を取ればステップアップもできる」と誘われ、トライしてみようと思ったのです。
■介護職に転職後の仕事は順調でしたか?
最初に入ったのは、リハビリデイサービスでした。
デイサービスは無資格でも働けるのがありがたかったです。
利用者さんの応対のほか、送迎、そしてスタッフの管理などもやらせてもらうようになりました。すると、系列のサービス付き高齢者住宅の管理者と施設訪問介護の管理者への異動の話がありました。大きなステップアップだとは思いましたが、経験も浅く初めてのことだらけ。介護職員初任者研修を取得してから異動し、なんとかこなしましたが、昼夜問わず働くことになり、心身ともに疲れ切って退職。友人に誘われて有料老人ホームに移ることにしました。
転職先の有料老人ホームでは、また新たに様々なことを学ばせてもらいました。6年間勤めて施設介護については一通りの仕事を身につけられたと思い、新たな目標を求めて在宅介護の世界へ転職を決めました。それが今の職場である訪問介護事業所です。
■介護職としての仕事に不安はありませんでしたか?
最初は、「まったく経験がないのに通用するのかな」と不安でした。周囲の人がとてもうまくこなしているように見えて、気後れしました。
■転職後、その不安は解消されましたか?
鮮魚店での仕事も対人業務でしたし、人と話すのが好きなので、次第に慣れ、楽しくなってきました。利用者さんから「ちゃん」付けで呼ばれるようになり、かわいがっていただけるようになると、ますますやりがいを感じるようになりました。
■転職する前に準備したことはありますか?
入職前は資格もありませんでしたし、特に準備したことはありません。体力には自信があったし、とにかく働いて仕事を覚えよう!という感じでした。
■介護職に転職してよかったことは何ですか?
人の笑顔が大切に思えるようになりました。もともと歌手を目指していたこともあり、自分の声でだれかひとりでもいいから、勇気や希望を持っていただけるようになれればいいな、と思っていました。
介護の仕事もそこに通じるものがあります。自分が関わったことで、何か幸せを感じていただけたら……。そんな気持ちで働いていると、次第に利用者さんやご家族に笑顔が広がっていくと感じます。
訪問介護では、ご家族は介護に疲弊し、時として心がすさむことがあります。でも、そんなご家族から「あなたが来てくれるようになって、とても気持ちがラクになり、うちの母にももっと家にいてほしいと思えるようになったの。ありがとう」って言われたときは、本当にうれしかったですね。
■介護職に転職して大変だと思ったことは何ですか?
看取りですね。介護の仕事はその方の人生の一部に触れる仕事だと思うんです。だからこそ、前向きに生きていただきたいと思うし、そういう気持ちで接していくので、いざ亡くなられたときは、本当に辛くて。
我々はプロですし、看取りも私たち介護職の役目ですが、やはりこらえきれずにさんざん泣いてきました。
愛称で呼んでくれていた方が、亡くなる寸前にまた私を愛称で呼んでくださったり…。関わってきた方が亡くなる場面に立ち会うのが辛い時期もありました。
でも、この仕事は人を明るくしていく、明るく生きてもらう仕事でもあります。看取りは何度経験しても辛いですが、前を向いてまた進んでいこうと自分に言い聞かせます。
■これまでの経験やスキルで転職後に役立ったものはありますか?
鮮魚店ではマグロの解体などもよくやっていました。
当時の伝手で新鮮なマグロを安く仕入れられるので、有料老人ホームで働いているときにイベントとしてマグロの解体ショーをやったんですよ。みなさん大喜びでした。いつもは食が細い方でもパクパク食べてくださってうれしかったです。
訪問介護でも、調理の支援でいわしの刺身を作って食べてもらっていたことがあります。ある利用者さんは糖尿病で血糖値が高かったのですが、青魚を食べるようになったら数値がどんどん下がって正常値に近くなっていったんです。あれはうれしかったですね。
■今後の目標や、やりたいことはありますか?
いずれ独立したいと考えています。
自分が思う、誠意のある介護をしたい。施設を持つのもいいし、訪問介護の事業所を持つのもやってみたいですね。経営は大変ですが、経営してそこではじめて、自分の介護に対する思いを伝えていけるような気がするので、目標を定めて頑張っていきたいと思います。
社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
約30年前よりファッションや芸能、子育て、教育などを中心にライターとして活動。2012年、親の介護を機に社会福祉士国家資格を取得し、高齢者介護・医療・健康分野でのライターとしても活躍中。
現在は、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
介護、医療、教育、子育てなどのテーマを中心にWEB雑誌・書籍などの記事執筆を多数担当。
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