出産前は損害保険会社や病院の事務職をし、子どもが大きくなってからは介護事務の仕事を10年続けていたというFさん。事務畑から介護現場を希望した理由は?転職のきっかけや転職時の様子をご本人に語っていただきました。
お話を伺った介護士さん
■今、どんな仕事をしていますか?
リハビリデイサービスの介護職です。
比較的要介護度の低い元気な利用者さんに、体を動かすことで健康意識を高めてもらったり、買い物を通して認知症予防にしてもらったりしようという取り組みをしているリハビリデイで、現場職として勤務しています。
■仕事のスケジュールを教えてください。
利用者さんを送迎し、リハビリや認知症予防体操をすること、買い物の付き添いなどが主な仕事です。
リハビリデイでは半日ごとのサービス提供となるので、午前に来る利用者さんと午後に来る利用者さんに同様のサービス提供をします。
<1日のスケジュール>
8:15 出勤
8:25 送迎車で午前の利用者さんを迎えに行く(4~6名程度)
9:15 デイに到着。体温計測、バイタルチェック。栄養チェックシートに今朝と昨晩何を食べたか記載していただく。最近のニュースは何かも聞く。これらは認知症予防のため。
9:30~ 交流タイム・リハビリ体操。スタッフがファシリテートして利用者さん同士の交流を促す。
10:45~ 近隣をウォーキング。雨の日はショッピングモール内を歩く。
11:15 ショッピングモールでの買い物に付き添い
12:00 デイに戻り、歩数計の数字や購入金額を記録していただき、振り返りをする。
12:15 送迎車で利用者さんを自宅に送る。その足で午後の利用者さんを迎えに行く
13:30 午後の利用者さんがデイに到着。以降は午前と同じ。
17:30 帰宅
■以前はどんな仕事をしていましたか?
グループホームや小規模多機能型居宅介護で介護事務の仕事をしていました。新卒で損害保険会社に勤務し、結婚後は医療事務の資格をとって病院の事務をしていたのですが、出産を期に辞職。
子どもが小学校1年生のときに、介護事務をしていた友人から「自分が本社勤務になるから、グループホームの介護事務員が欠員になってしまう。あなたやってみない?病院で医療事務をしていたのなら、介護事業所の事務は十分できると思うよ」と誘われました。
■介護職に転職したきっかけは?
友人の誘いを受けて、嘱託職員として介護事務の仕事を始めました。しかし、人手不足で事務をしながら現場のお手伝いもすることに。でも、実際に利用者さんと向き合ってみると、むしろパソコンと向き合っているより対人援助のほうがずっとおもしろく性に合っていることがわかりました。
それで、事務と介護職を兼務しながら10年勤務したのですが、働いていた事業所の経営状態が徐々に悪くなり、経営コンサルティングが入り、利益中心の運営になってしまったんです。
法人のやり方に息苦しくなって、もっと「よい介護」を追求する事業所で働きたいと思い、介護職として転職することを決めました。
■介護職に転職することに不安はありませんでしたか?
転職前の事業所は全介助で寝たきりの利用者さんが多く、メインは身体介護でした。コミュニケーションより体力を使う介護ばかりやっていたんです。
けれど、デイサービスでは比較的元気な利用者さんと話をしたり、レクリエーションをしたりするのが仕事の中心。コミュニケーション・スキルを磨いてこなかったので、最初は社長からダメ出しの嵐でした。意欲あふれるスタッフが多く、私も仲間に入れて欲しいと思って探し当てた法人でしたが、やっていけるのだろうかと本気で不安でした。実際、辞める人もそれなりにいたんです。
■転職後、その不安は解消されましたか?
経験を積み重ねるしかない、と思ってひたすらがんばりました。
うちのデイの利用者さんはひとり暮らしの方が多く、認知症になってもご自宅でひとりでがんばっているのです。そう言う方々を、なんとか自分のような者でも支えられるようになりたい、というのがモチベーションでした。
でも実際は、むしろ利用者さんに励ましてもらっているなと感じます。送迎の時に道順を教えてくれたり、「無事に来られたね、道覚えたじゃない」なんて声をかけてくれたり。「気をつけて帰るのよ」と手を握ってくれたり。どちらがケアされているのかわからないですよね。そんな利用者さんの優しさに支えられて、だんだん不安が解消されていった、というのが実情ですね。
■転職する前に準備したことはありますか?
デイで働くのがはじめてで、レクリエーションなど自分でできるのか心配でした。
それで、介護職員向けの認知症予防のレクリエーション実践講座を受講してから転職しました。毎週の講座で、計10回くらい受講しました。
■業務を始めていかがでしたか?
実践的な講座だったので、受講することでレクリエーションのネタの引き出しが増えました。
■介護職に転職してよかったことは何ですか?
パソコンに向かって仕事をするよりも、対人援助の仕事のほうが断然楽しいと感じています。
認知症の方はうつ状態になりがちです。孤独感や不安から、デイに来るたびに「死んでしまいたい」「いつ死んでもいいんだ」って言う人もいます。けれど、半年たつとみんな笑顔になっていくんです。死んでもいいと言わなくなります。
居場所を作ってあげることができた、という実感があって、よかったなぁと思いますね。
■介護職に転職して大変だと思ったことは何ですか?
以前、グループホームで身体介護もしていた時は、2週間に1度整体に行かなければならないくらい腰痛がひどかったです。
デイサービスでは身体介護はほぼないので、体はラクですね。利用者さんと午前と午後の2回、散歩や買物をするので、1日で約2万歩も自然と歩いているんです。足腰が鍛えられたせいか、今は腰痛がすっかりなくなりました。
■これまでの経験やスキルで転職後に役立ったものはありますか?
介護事務をやっていたので、利用者さんに「この明細のこれなに?」などと聞かれたり、「役所からこんな手紙が来たんだけれど」と相談されると、さっと答えてあげられることです。パソコン操作も慣れているので、スタッフに教えることもあります。
■今後の目標や、やりたいことはありますか?
利用者さんの多くはひとり暮らしで、だれもいない家に帰るのが寂しそうなんです。「ちょっとお茶飲んでいきなさいよ」なんて言われます。
それならみんな一緒に生活できる場を作りたいと思って、利用者さんが食事をしたり宿泊したりできる施設を法人で作ろうかと話しています。時間はかかると思いますが、ぜひ実現したいですね。
介護保険を使う部分と自費の部分を組み合わせ、利用者さんが高額のサービス費を払わなくてすむようにスポンサーもみつけたいです。看取りまでできるように、暮らしそのものを支える場を作りたいです。
また、障害者の就労支援にも興味があるので、それも勉強したい。介護福祉の世界にどっぷりつかることを続けていきたいですね。
社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
約30年前よりファッションや芸能、子育て、教育などを中心にライターとして活動。2012年、親の介護を機に社会福祉士国家資格を取得し、高齢者介護・医療・健康分野でのライターとしても活躍中。
現在は、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
介護、医療、教育、子育てなどのテーマを中心にWEB雑誌・書籍などの記事執筆を多数担当。
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