毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「利用者の優しい言葉で、長年のコンプレックスが解消」という話題について紹介します。
誰にも言いたくない「弱小野球部の万年補欠」の過去
ホームヘルパーは、助けを必要としているお年寄りの世話をするのが仕事だが、時にはホームヘルパーが利用者から元気をもらうこともある。
ホームヘルパーとして働いている30代の男性のオノさんは、気難しいことで評判だった男性利用者から思わぬ言葉をかけられ、長年のモヤモヤが解消したそうだ。
オノさんは、高校卒業後にいくつかの職業を転々とし、数年前にホームヘルパーとしてデビュー。都内の介護事業所で働いている。
そんなオノさんには長年、人に隠していることがあった。
オノさんが言う。
「私は高校時代、野球部に入っていました。
野球部と言えばどの学校でも花形のクラブですが、私が通っていた高校はサッカー部が強く、野球部は『あったの?』と言われてしまうレベル。
私はそんな弱小野球部で万年補欠だったのです」
試合に勝った記憶などほとんどないチームの試合を、いつもベンチで見ていたオノさん。
万年補欠だったことを恥ずかしく思い、ひた隠しにしていたものの、ある男性利用者のお宅でポロっと漏らすことになったそうだ。
「Kさんという気難しいことで有名な利用者さんがいて、私が担当することになった時は、同僚から『言葉遣いにうるさいから』『ウンチクが始まると長いわよ』などとアドバイスを受けました。
しかし、ふとしたきっかけで、お互い阪神ファンであることが分かり意気投合。
そこでうっかり、『実は学生時代、野球部だったんです』と言ってしまったんです」
オノさんにとって野球部在籍は、人にはあまり話したくない“黒歴史”。
しかしKさんは興味を持ち、「ポジションはどこだった?」「ホームランは打ったことがあるのか?」と畳み掛けてきた。
オノさんが、自分は一度もレギュラーになれなかったこと、ホームランはおろか試合に出たことさえほとんどなかったことを告白すると、思わぬセリフが返ってきたという。
「誰からも褒められなくても野球を続けていたのはエラい!」
「私はてっきり、『ダメなやつだ』とでも言われると思ったら、Kさんは『エラいじゃないか!』と言うんです。
『いつも試合に出て、ホームランを打ったりしていれば、周りからはチヤホヤされるし、自分も気分が良いから、部活を続けるのは難しくない。
けれどもお前は、誰からもチヤホヤされることがないのに、それでも野球部を辞めなかった。それはなかなかできることじゃないし、自慢して良いことなんだぞ』とKさんが仰ったんです。
私は高校時代にクラスの友人から『試合に出られないのに、よくやってられるな』と言われたことがありますし、自分でも、試合にも出られないのに野球部を続けていることを恥ずかしく思っていました。
ところが『エラいぞ』などと言われたので、涙をこらえきれなくて泣いてしまったんです」
涙を流すオノさんを見たKさんは、「泣くやつがあるか、バカモン」と言ったものの、その目は優しさに満ちていたのだとか。
今では、野球部だったが試合には出られなかったことも、堂々と人に話すことができるようになったオノさん。飲み会などの鉄板の持ちネタになっているそうだ。