■書名:嚥下障害ポケットマニュアル
■著者:聖隷嚥下チーム
■発行元:医歯薬出版
■発行年月:2011年9月1日(第3版発行)
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嚥下障害の基礎から対処法まで、現場で必要な知識がコンパクトに凝縮
加齢に伴う嚥下機能の低下原因は、解剖学的に咽頭が下降することをはじめ、義歯の問題から味覚の変化、全身体力・免疫力低下、基礎疾患までさまざまあると言う。そこに認知症という要因も加われば、リスクはさらに高まる。そんな中で、いかに嚥下障害の兆候を早期に発見できるかや、誤嚥を防ぐ食事のサポートなど、介護職に求められる役割は大きい。
今回紹介するのは、そうした現場のニーズが高まるなか、嚥下障害について学びたいと考えている人におすすめの一冊だ。「まえがき」には、出版のきっかけが次のように語られている。
<嚥下障害は患者数も多くベッドサイド、在宅、外来などで常にその場の対応が必要とされる。嚥下障害に関しては多くの著書や雑誌の特集号が出され、講習会や研究会、学会などで知識を得る機会が多くなったが、目の前の患者さんに何をどうすればよいかというときすぐ調べられるハンディ本は少ない。>
上記のような思いから出版された本書は、新書サイズの中に知識と手技情報がぎっしりと詰め込まれている。すらすら読むと本いうより、現場で調べやすいテキストという凝縮された印象だ。
まずは、嚥下に関係する組織の解説や、食物の認知から食道を通過するまでの段階別の病的状態などの基礎知識を解説。「咀嚼はどうして重要なのか」といったことが一つひとつ学んでいける。
また、介護の現場では「どのような場合に嚥下障害を疑うべきなのか」と悩むことも多いのではないだろうか。そうした場面でのチェックに役立つよう、主な症状や問診の質問事項、身体所見から摂食場面の観察ポイントまで細かく提示してあるのも特徴のひとつ。リスク管理としては、誤嚥の予防や誤嚥性肺炎の早期発見、栄養障害についての注意点や対処法が書かれている。
さらに、静岡県浜松市にある聖隷三方原病院などで実施しているリハビリテーションの訓練法について、多くのページを割いているのも特徴。たとえば、「のどのアイスマッサージ」や「嚥下体操」「口唇・舌・頬のマッサージ」などが、あいうえお順に並べてあり、現場で“引きやすく”という工夫が凝らされている。
巻末に一覧表になって紹介されている「嚥下障害の症状別対処法」にもぜひ目を通してほしい。「口いっぱいに詰め込んでしまう」「口に入れたまま止まってしまう」など、認知症患者に見られる症状と対処法もあり、実際の介護現場で活用できるはずだ。
本書は、臨床現場で活躍中の医療スタッフ33名によって書かれている。日頃から、入院患者や嚥下外来の患者を対象にしているため、医療の度合いが濃い部分もある。とっつきやすい内容ではないかもしれない。しかし、医療と介護が連携してサポートすることが求められるなかで、摂食・嚥下について自信を持って介護にあたるためにも、ぜひ頭に入れておきたい知識と言えるだろう。
<小田>
著者プロフィール
聖隷嚥下チーム(せいれいえんげ・ちーむ)
浜松市リハビリテーション病院院長・藤島一郎氏を編集責任者とする執筆チーム。メンバーは、リハビリテーション科医師や看護師、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士など、33名で構成。浜松市リハビリテーション病院、聖隷三方原病院、聖隷浜松病院などの嚥下臨床や教育などに携わっている医療スタッフで、学会などの場でも活躍中。代表の藤島一郎氏には、『嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す』『疾患別に診る嚥下障害』など多数の著書がある。