■書名:いつもと違う高齢者をみたら 在宅・介護施設での判断と対応
■著者:荒井 千明
■発行元:医歯薬出版
■発行年月:2016年10月5日
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高齢者の“いつもと違う”は重要なサイン? 現場で判断に困ったときに開く手引き書
「食欲がない。おいしくないと訴える」
「熱があり、元気がない」
「だるさや呼吸苦を訴えている」
介護の現場では、利用者の“いつもと違う”状態に直面し、対応が必要になるケースは少なくないだろう。
その際、すぐ医師や看護師に判断を委ねられれば良いが、医療スタッフがいなければ、介護スタッフが利用者の訴えや状態と向き合わなければいけない。
“いつもと違う”状態が急変につながる重要なサインなのか、そうではないのか。もう少し様子を見ていても大丈夫か、すぐに病院で受診すべきか…。
そうした判断に迫られ困ったときに頼りになるのが、今回紹介する本書だ。
特徴は、「食べない」「発熱した」「痛みを訴える」「機嫌が悪い」「意識がない」「呼吸数が多い」など、“いつもと違う”状態別に項目が分かれていること。
困ったときの手引き書としてすぐに利用しやすいよう、工夫されている。
それぞれのケースで、バイタルサインや経過のデータを交えて事例が紹介されるので、自分だったらどう対応するかを考えながら読んでいける。
さらに、事例ごとに「共有すべき情報」や「どう対応すればよいか」「想定される病態」について説明が続く。
その後の経過や医師の受診結果も提示されることで、判断の分岐点がどこにあったのかを考えられるよう構成されている。
また、判断を迷うケースはQ&Aで改めて考える場が用意され、知識を整理しながら読み進められる。
「私が働く施設には看護師がいるから、介護スタッフにこんな医療知識は必要ない」と思う人もいるかもしれない。しかし著者は、介護の現場で働くスタッフには医療知識が必要だと説く。
介護職に求められる対応や、望ましい姿勢について、次のように書いている。
<結論をいえば、入居者の状態を「正しくとらえる力」をもち、それを情報として「伝える力」をもつこと。この2点が求められる姿勢です。これらを情報として看護師に伝え、介護スタッフ間でも共有する対応が望ましいのです。>
“いつもと違う”ことへの気づきは、まさに“いつも”を知ることから始まる。
そのためには、利用者の身近な存在である介護スタッフの「正しくとらえる力」と「伝える力」が重要だ。さらに、症状やバイタルサインの見方をはじめとする医療知識も必要になる。
その医療知識を何から学べばいいかわからない人にとっても、本書はまさに手引き書になるだろう。
著者は、「施設スタッフは、受診を“先延ばしにする”傾向があります」と、耳の痛い指摘もしている。
付き添うスタッフが現場を離れることで負担が増える、受診後の報告や記録作成で残業が増える、といった理由のほか、「そのうちよくなったという成功体験」も先延ばしにしたい気持ちを後押ししているのではないかと言う。
<受診したらいつも長期入院になってしまうというパターンにならないために、まず自分たちの都合や成功体験を棚上げしてみましょう。高齢者の体調を見極めてタイムリーな受診ができれば高齢者は助かりますし、スタッフの負担も減り、やがては成功体験になっていくはずです。>
本書を職場の研修に活用し、職場全体のスキルアップや意思統一に役立ててはいかがだろうか。
著者プロフィール
荒井千明(あらい・ちあき)さん
新潟大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科修了。医学博士。現在、社会福祉法人湯河原福祉会・浜辺の診療所(神奈川県湯河原町)管理者、同法人特別養護老人ホーム・シーサイド湯河原配置医。社会福祉法人同愛記念病院内科などでアレルギー・呼吸器系内科医として勤務後、在宅診療や老健施設長の立場から介護医療福祉事業に関わったあと現職。著書に『医者の責任 患者の責任』(集英社文庫)などがある。