■書名:多職種で支える高齢者うつ病
■編著:冨松 健太郎
■出版社:ピラールプレス
■発行年月:2016年8月
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高齢者に起こりやすいうつ病について、各専門職が実例を紹介
高齢者うつ病とは、65歳以上の年代にみられるうつ病のこと。高齢者に起きやすい病気であるにもかかわらず、見逃されたり、認知症と誤解されたりすることが多いのだそうだ。
自殺にもつながるうつ病は、高齢者の疾患として正しく認識しておく必要がある。
本書は、精神科を専門としない医療従事者や福祉・介護関係者を対象に書かれているので、うつ病がどういうものかを知るところから、しっかり理解していくことができる。
まず、なぜ高齢者がうつ病を発症しやすいのだろうか。
本書では、高齢になると身体的衰えからうつ的思考におちいったり、不眠がうつ病の原因になったりすることのほかに、このような説明をしている。
<長い人生の後半戦(この後半戦も近年の急速な高齢化により、その期間がより長くなってきている)であるため、若年者に比べ、出会いよりも色々な別れを経験することが多い。これらの別れにより孤独に陥ることもしばしばである。
つまりは、抑うつ的になり得る要因が非常に多いわけであるし、うつ病の発症要因になりやすい種々のイベントが重なり合うことが多く、事態は複雑化しやすい。>
高齢になるとうつ病になりやすいにもかかわらず、一般内科や高齢者を専門とした病院、老人ホームなどでも、高齢者のうつ病を見逃すことが多いのだとか。
うつ病は、認知症の初期と似た症状があるため、認知症と間違いやすい。それに、「気分の落ち込みは他の病気のせいで仕方ない」という考えも、うつ病の発見を遅らせているそうだ。
また、うつ病と他の疾患との関係も知っておきたい。多くの身体的疾患がうつ病の原因になる一方で、うつ病の症状が身体面に出ることも多いという。
さらにうつ病、認知症、糖尿病の3つは、関連が深いことがわかっている。そして身体的疾患があると、自殺の危機が高まることが本書で語られている。
うつ病の原因や症状のほかに、うつ病を診断するための検査や治療・看護についても詳しく紹介されている。
臨床現場で実際に患者に向き合う医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、心理療法士などが、それぞれの立場からまとめた内容は、具体的でわかりやすい。
看護の項目では、「自殺させない看護」について、多くのページを使って語られていて必読だ。看護師としての心構えや役割を知ると同時に、うつ病看護の難しさが感じられ、介護職にも参考になるのではないだろうか。
高齢者のうつ病に関連した実際の症例を数多く掲載していることも、本書の特長だろう。
29もの症例について、「病歴」「治療の経過」「症例のまとめ」が詳しく読めるのがうれしい。
具体的な症例をみていくことで、医療従事者だけでなく、介護職や一般の読者でも、無理なくうつ病についての理解を深めていくことができそうだ。
編著者プロフィール
冨松 健太郎(とみまつ・けんたろう)さん
医療法人富松記念会副理事長。医療法人富松記念会・三池病院精神科医師。2002年川崎医科大学医学部卒業後、公益財団法人正光会宇和島病院精神科、社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院精神科、久留米大学病院精神神経科勤務を経て、現在に至る。精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医・同指導医などの資格をもつ。