毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「言葉遣いは難しい」という話題を紹介します。
新しい年度が始まり、若者たちが社会に羽ばたく季節がやってきた。これまで同学年、同世代の人間としか付き合ってこなかった若者が社会に出て、初めにぶち当たる壁が「敬語」だが、訪問ヘルパーたちも言葉遣いには苦労しているようだ。
あえて敬語しか使わない理由は?
都内の事業所に勤務するHさんは、意図的に敬語“しか”使わないようにしているという。Hさんは現在30代後半で、ヘルパー経験は5年ほど。Hさんが訪ねている利用者の中には、すでに3年近く通っているお宅もあり、利用者のみならず家族や孫、ペットの名前まで覚えているが、それでも彼女が敬語を崩すことはない。そこにはHさんなりの“防衛本能”が働いているそうだ。
「『それでなんでヘルパーをやってるの?』と言われてしまいそうですが、私、人見知りが酷くて、親しくない人とおしゃべりするのがすごい苦手なんです。それなので、なるべく利用者とのおしゃべりが盛り上がらないように、わざと敬語しか使わないことにしてるんです」
こうしたHさんの勤務態度は、「礼儀正しいから気に入っている」「敬語がきちんとしているから、安心して介助をお願いできる」と、評価される場合も多い。が、今までには、「一緒にいるとくたびれる」「いつまで経っても打ち解けない」「他人行儀な感じ」「冷たい感じがしてイヤだ」といったクレームを受けたこともあるのだとか。
Hさんは、「対応する相手によって臨機応変に使い分けできればいいんですけど……私にはちょっと難しいんですよね」と、悩みを語っており、「せめて笑顔だけは忘れないようにしている」という。
訪問ヘルパーのタメ口に呆然の利用者
敬語に関しては、利用者側からも報告が寄せられている。世田谷区在住で「要介護度1」の認定を受けている70代の男性・Yさんはある時、初対面で「おはよ~」と言いながら部屋に入って来た20代の女性ヘルパーに遭遇した。なかば呆気にとられたYさんだったが、そのヘルパーは全く気にすることなく、その後も「トイレ行くよ~」「○○する~?」「××しよっか~」と、“タメ口”を連発し、敬語や丁寧語の類は1つも発しなかったという。
ところが現在、Yさんが最も心を許しているヘルパーは、その“タメ口ヘルパー”なのだという。最初の頃は「とんでもないヤツだ」と腹を立て、ケアマネジャーにも文句を言ったYさんだったが、気がつけば、最もおしゃべりが弾み、気を使わなくて楽なのはその子なのだとか。
敬語に関しては、事業者によっても考え方がさまざま。接遇マナーとして敬語を徹底するところもあれば、本人にまかせるケース、利用・訪問する相手によって使い分けを指導するケースもある。
上司と部下や、クライアントと営業マンなど線引きがはっきりした関係では「タメ口」は否定されることがほとんど。ただ、介護の現場は、そこまで線引きが明確ではない。利用していただく「お客様」であるが、その一方で「家族的な関わり」を求められることも多い。
今回のような例を見聞きすると、タメ口も一概に否定されるものではないかもしれない。
公開日:2015/3/30
最終更新日:2019/3/30