毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「ヘルパーに求められる倫理観」という話題について紹介します。
財布に大金。利用者の“脇の甘さ”にひと苦労
認知症の親の財産が、知らぬ間になくなっていた──そんなトラブルを回避するために存在するのが「成年後見制度」だ。この制度は、認知症や知的障害、精神障害などで社会的な判断能力が不十分な人に代わり、不動産や預貯金などの管理をしたり、介護サービスなどの契約行為を行うもの。ところが、そんな成年後見制度の悪用による被害額が、昨年だけで56億円にも上ることが報じられた。(*)
本来であれば弱者を救済するはずの人間が、彼らを食い物にするとは言語道断。高齢者と日常的に触れ合うヘルパーにも、高い倫理観が要求される。これは、中部地方に住むヘルパーのMさんの経験談だ。
ヘルパーのMさんは数年前、Yさんという女性を担当していた。90代に入って初めてヘルパーの世話になったYさんだったが、彼女の“気前の良さ”というか“脇の甘さ”にMさんは苦労させられたという。
ヘルパーのMさんが買い物を頼まれ、Yさんから財布を渡されると、財布にはいつも数万円から十数万円の現金が入っていた。ヘルパーが買い物に行く際には、トラブルを避けるために預り金を記録するルールになっていたが、Yさんがそれを確認する様子はゼロ。ヘルパーのMさんはもちろん着服など一度もしたことはなかったが、「その気になれば1万や2万は簡単に取れたでしょうね」と振り返る。
一歩間違えれば、犯罪にも…
Yさんはある時、「買い物のついでに現金をATMで下ろしてきて」と言い出した。聞けば、「現金を下ろすためにタクシー代を払うのがバカバカしい」とのこと。しかしATMで現金を下ろすということは、暗証番号を聞くということだ。
これはヘルパーが着服する可能性があるだけでなく、ヘルパーが家族から訴えられるような事態も想定できるだけにもっともやってはいけない行為。Yさんは、「(ヘルパーの)Mさんはそんなことしないわ」というばかりで全く聞き耳を持たなかったが、ヘルパーのMさんは当然承諾できず、近くに住む娘さんに連絡をして何とか解決したという。
このほかにもヘルパーのMさんが会話の流れで「今度○○に旅行に行く」「娘に赤ちゃんが生まれた」というような話をしたところ、Yさんが「それじゃあ…」と言って財布を出し、お金を渡そうとすることが何度もあり、これを断るのも大変苦労したという。ヘルパーのMさんはこれらの行動を「当たり前のこと」と言うものの、「何かと誘惑が多い仕事ではある」とも説明。仕事の性質上、どうしても“性善説”に頼らざるを得ないようなケースも、時に存在するようだ。
*成年後見の悪用被害56億円も、打つ手なし!? 行政書士組織加入3% 司法書士や弁護士も摘発相次ぐ(産経WEST 2015/6/27)