介護施設や福祉施設は社会的に必要。でもウチの近くはイヤ
「社会的に必要な施設だとは思うが、自分の家の近くにはつくってほしくない。」
こうした主張や態度を、「Not In My Back Yard(うちの裏庭はやめて)」の頭文字をとって、『NIMBY(ニンビー)』といいます。アメリカ発祥の言葉ですが、今、日本でもNIMBYをあらわにする人の存在が指摘されています(*)。
記事によれば、これまで日本でNIMBYの対象となりやすかったのは、火葬場やゴミ処理施設など。
それが近年、看取りのための介護施設や児童系施設などの開設にも、反対する動きが広がっているとのことです。
記憶に新しいのは、2018年12月に報道された、東京・南青山の「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」建設問題です。
港区が南青山5丁目での児童相談所を含む複合施設の整備計画について、住民説明会を開催したところ、延べ300人の参加者から建設に否定的な意見が数多く示されたというもの。
これが報道され、大きな議論に発展しました。
介護施設の開設は、地域になじむことでスムーズに
介護職のみなさんは、介護施設の開設に対する住民の反対は今に始まったことではない、と思うかもしれません。
確かに、介護保険制度開始当初から数年前まで、認知症グループホームを開設しようとすると住民の反対に遭い、理解を求めるのにかなりの時間を必要としたという話をよく聞きました。認知症への理解が十分ではなかったことが、開設反対の大きな要因だったのではないかと思います。
しかし最近では、介護施設の開設が強固な反対に遭うという話を耳にすることは減ってきた印象です。それは、介護が一般的になり、認知症への理解が進んだことも大きな要因でしょう。
そしてまた、それぞれの介護事業所が地域での活動を通し、介護施設への理解を進めてきたことも、その要因となっていることと思います。
ある介護事業者は、もともと自分自身が暮らしてきた地域で介護事業所などを開設しました。そのため、地縁があり、町内会の協力も得られて地域住民にも理解してもらいやすかったと語ります。
この介護事業者は、開設後も、地域と融合しながら運営してきたことで、さらに地域での理解が進み、職員も地域の人脈によって口コミで採用できているとのこと。地域に根付いた生活を送ってきた人が、地域を大切にしながら介護事業所を開設すると、こんなにスムーズに運営できるのだなと改めて感じたものです。
介護施設に限らず、地域で新しいことを始めようとすれば、地域住民等に受け入れてもらうにはやはり時間がかかります。
どれほど社会的意義のある取り組みだとしても、“正論”を伝えるだけでは人の心は動かしにくいかもしれません。
正論を伝えるだけではなく、人と人とのつながりを大切にし、誠意を持って説明して理解を求めている姿勢などが、人の心を動かしていくように思います。
地域住民の理解のためには、介護施設・福祉施設の役割を丁寧に伝えること
そうした視点で見ると、記事で紹介されていた神戸市須磨区の「看取りの家ブエンテ」や、南青山の「港区子ども家庭総合支援センター」は、地域住民にとって、降ってわいたような話だったのかもしれません。
人は知らないものに対して「恐怖心」を覚え、遠ざけたいと思うものです。何の予備知識も与えられないまま、突然、「開設する」といわれて、反射的に拒否的な態度をとってしまうことを、一方的に責めることはできないようにも思います。
一方で、一般に、困っている人の力になりたいという気持ちのある人は多いもの。また、理解が十分ではないときには反対しても、時間をかけて説明し、施設の役割、意義などを理解できれば賛成してくれる人は多いことと思います。
終末期を支える施設も、児童虐待対応や子育て支援のための施設も、これからの社会には必要なものです。
そうだとしても、「必要である」ことを訴えるだけでなく、こうした施設がどのような役割を担い、それがこれからの地域社会にどのようなプラスになるのかを、住民に丁寧に伝えることも大切です。
そのためには、説明に十分な時間をかけ、粘り強く理解を求めていきたいもの。
周囲に温かく受け入れてもらえる関係を築いてから開設することが、その施設の開設後の運営においても、大きな意味を持つと思います。
<文:介護福祉ライター/社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*福祉施設、家の近くはお断り 「NIMBY」相次ぐ(日本経済新聞 2019年4月8日)