「サービス付き高齢者向け住宅」で特養より介護費がかかることも
もともとは、高齢者が元気なうちに移り住み、見守りを受けながら生活を続ける場として想定されていた「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」。
しかし、日本経済新聞社の調査により、家賃8万円未満のサ高住では、要介護3以上の入居者が多いことが明らかになりました(*)。
家賃8万円未満のサ高住では、要介護3以上の入居者が48%を占めるのに対し、家賃14万円以上では20%にとどまっているとのこと。
家賃を低く設定して入居のハードルを下げ、併設する同一法人の介護サービスを利用してもらうことで、トータルとして収益を上げる。一部のサ高住では、そんなビジネスモデルが採用されているようです。
2016年12月に発表された大阪府の調査によると、調査に回答した大阪府内のサ高住では、要介護度別の支給限度基準額に対する介護サービスの利用率は、平均で86%。
要介護3以上の入居者だけを見ると、約91%まで介護サービスが利用されていることがわかりました。
この調査では、調査対象のサ高住に入居している要介護3以上の人は、特別養護老人ホームの入所者より介護費がかかっているという実態も明らかになっています。
▼大阪府内における要介護度別介護費
出典:大阪府高齢者保健福祉計画推進審議会専門部会報告書 参考資料(1)<クリックで拡大>
最近、特別養護老人ホームの入所待機期間が短くなったと言われています。
それは、見かけの家賃の安さから、特別養護老人ホームよりサ高住を選択する人(多くの場合、入居する本人ではなく、家族)が増えているからだとも言われています。
しかし実態としては、家賃は安くても、介護費全体で見ると、かえって費用がかかっているサ高住もあるということです。
サ高住は「金儲け」のツールではない!
厚生労働省によれば、全国の在宅での介護サービス利用率の平均は、要介護3で58.0%、要介護5でも65.6%です。
それと比較すると、大阪府のサ高住入居者の介護サービス利用率86%は、非常に高いことがわかります。
出典:厚生労働省「平成29年度 介護給付費等実態調査の概況」<クリックで拡大>
サ高住には、居宅介護支援事業所や訪問介護事業所、通所介護事業所などを併設しているところが多数あります。もちろん、そうしたサ高住がみな、過剰にサービスを提供していたり、入居者に併設サービス以外のサービスを使わせない、いわゆる「囲い込み」をしていたりするわけではありません。
しかし、日本経済新聞社や大阪府のこうした調査結果をみると、サ高住という仕組みが、介護サービスで「不当に」収益を挙げようとしている、金儲け目当ての事業者から、「稼ぎやすいツール」として利用されているとも考えられます。
その結果、今後、サ高住に対して国による過剰な規制がかかり、適正な運営で入居者のその人らしい暮らしを実現しようとしている事業者が、サ高住事業を運営しにくくなるのでは困ります。
民間企業である以上、収益性を考えることは必要です。
しかし、「不当に」収益を上げる事業者が増えれば、結果として介護保険財政を圧迫するばかりでなく、サ高住という、本来、高齢者にとって利用価値の高い住まいのシステムへの信用をおとしめることにもなります。
自法人の利益だけを追求する事業者が増えていけば、介護業界全体に大きなひずみが生じる恐れがあります。
介護業界の健全性を守っていくために、不適切な運営をする事業者が自然と淘汰されていくよう、介護職のみなさんにも目を光らせていただければと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*高齢者住宅「サ高住」の異変 安いほど増える要介護者(日本経済新聞 2019年2月3日)