次期介護保険制度の見直し等について検討を行う、社会保障審議会介護保険部会。2016年6月初めに開催された第59回介護保険部会では、介護人材の確保(生産性向上・業務効率化等)などをテーマに意見交換が行われました。(*1)
専門性があまり必要でない「生活援助」業務は、介護助手に?
介護分野の生産性の向上や業務の効率化には、様々な課題があるとされています。今回、特に目を引いたのは、介護の専門性の発揮における課題。
「各サービス施設・事業所の管理者が考える“介護業務に求められる専門性”と、“介護職員の業務実態”との間に差が生じている」という指摘です(*2)。
どういうことかというと、たとえば、訪問介護事業所の管理者の8割が、掃除や洗濯、衣類の整理、ベッドメイクなどの生活援助は介護福祉士でなくてもできると考えています。しかし、実際には、介護福祉士の約7割がこうした業務をほぼ毎回実施しているとのこと。ここにギャップがあるという指摘です。
▼訪問介護事業所管理者の各業務の専門性に対する認識
・出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「介護人材の類型化・機能分化に関する調査研究事業報告書」(平成28年3月)
そして、今回の意見交換では、こうした高い専門性を必要としない業務については、「介護助手」に担当してもらい、専門性を持つ介護職には専門分野で能力を発揮してもらってはどうかというのです。実際、そうした取り組みをしている例として、三重県老人保健施設協会での取り組みが紹介されました。
これは、三重県内の老健で、60~75歳ぐらいの地域の元気な高齢者に「介護助手」として働いてもらって、介護職を専門業務に専念させるというモデル事業です。介護人材の確保、高齢者の就労先の確保、就労による介護予防という3つのメリットがあると紹介されていました。
介護職の専門性は難しい身体介護を行うことか
さて、では、介護職が発揮すべき「専門性」とはいったいなんでしょうか。
入浴や排泄、食事の介助が専門性の高い業務でしょうか。認知症のある人への身体介護に専門性を発揮すべきなのでしょうか。
ある介護事業所の経営者は、「介護職はお世話係ではない」といいます。本人のやりたいこととそれをする意欲を引き出し、それをできる環境を整える。それが介護職の役割であり、専門性だとこの経営者は言います。
しかし、この調査結果だけを見ると、調査に回答した管理者は介護職をお世話係、中でも身体介護をするお世話係と考えているようにも見えます。
「生活援助の行為だけを切り分けて、「掃除」なんて誰でもできる、と考えるのは大きな間違いです。掃除も洗濯も、入浴介助も排泄介助も、介護を必要とする人とコミュニケーションを図り、信頼関係を築いていくツールでしかありません。そうした援助を通して関係を作り、前述の『やりたいこととその意欲』を引き出していく。そして、それを実現するために、多職種で連携したり、地域の人の力を借りたり、様々な手立てを考え、実行していくことこそが介護職の専門性です」
この経営者はそう語っていました。
介護助手に手伝ってもらうこと自体は、よいことかもしれません。いろいろな人が関わって介護していくことは、望ましいことです。しかし、国の考えていることは、根本的に、前述の管理者が語るような“介護職の専門性”とは方向性が違っているように思えてしまいます。
そして介護職自身も、本来の“介護職の専門性”について、深く考えていない人がまだまだ多いのかもしれません。
このような切り分け方で介護の仕事を見ていくと、介護職は機械のように身体介護をこなしていく職種になってしまいそうです。いわば、“高度なお世話係”です。
そこに、介護の仕事のやりがいや醍醐味はあるのか。介護職として専門性を高め、キャリアアップしていく、というのはどういうことなのか。よく考えてみたいものですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 介護人材の確保(生産性向上・業務効率化等)社会保障審議会 介護保険部会 参考資料1 (2016年6月3日)
*2 介護人材の確保 (生産性向上・業務効率化等) 社会保障審議会 介護保険部会 資料1 (2016年6月3日)
<参考>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 「介護人材の類型化・機能分化に関する調査研究事業報告書」(平成28年3月)