2015年現在、日本の高齢化率は26.7%。4人に1人以上が65歳以上である日本では、高齢者の政治的な影響力が大きくなる「シルバー民主主義」の弊害が指摘されています。
2017年5月、「シルバー民主主義」について、研究者3人が意見を述べる記事が3日にわたって掲載されました(*1~3)。
高齢者に厳しい政策は、後回しにされがち
なぜ高齢者が増えると、政治的な影響が出てしまうのでしょうか。それは、選挙での投票率から見るとわかりやすいといわれています。
1995年から2013年までの7回の参議院議員選挙における年代別の投票率は、20代が25~35%程度、30代が45~55%程度なのに対し、60代は65~75%程度、70代以上も65%前後となっています(*4)。
高齢者のほうが、圧倒的に投票率が高いのです。
政治家にすれば、子育て支援やニートへの就労支援などの若年層向けの政策を打ち出しても、投票所に足を運んでくれないのでは、なかなか得票につながりません。
一方、高齢者が嫌う年金額の切り下げや介護保険のサービス縮小などを打ち出すと、一気に高齢者の票を失う恐れがあります。
そのため、政治家は高齢者の気持ちを「忖度(そんたく)」し、若年層向けの政策や高齢者が嫌う政策を後回しにしてしまいがちだというわけです。
介護では“目の前の利用者”も“未来の利用者”もどちらも大切
実際、高齢者に厳しい政策は、世間的にも大きな反発を招き、提案が難しい実態があります。
2018年度の介護報酬改定では、要介護1、2の人への生活援助サービスを介護保険から切り離すことが見送られました。高齢者、介護関係者からの大きな反発があったからです。
在宅の高齢者の生活状況を間近で見ている介護職としては、目の前にいるこの利用者が生活援助サービスを受けられなくなったら、何が起こりうるか容易に想像できます。
栄養バランスの取れた食事が取れなくなる。洗濯ができず、衣類が汚れても着替えられなくなる。家族の介護負担が大きくなり、施設入所が選択される。
そんな行く末が思い浮かび、生活援助サービスの切り離しには反対、と考えている介護職も多いことでしょう。
一方で、20年、30年先の未来のことは、なかなかありありとは思い浮かびません。もしかしたら介護給付が増え続けて介護保険財政が破綻し、要介護5の人しかサービスを受けられない状況になっているかもしれません。
しかし、それは自分自身とも目の前の利用者とも直結しない、不確定の未来であり、なかなか危機感を持ちにくいものです。
記事の中で研究者の一人が、次のように書いています。「日本では、民意の高齢化に加えて民意の近視眼化も進行している」
目の前の利用者も大切ですが、未来の利用者も同じように大切な存在です。近視眼化のもたらす問題に、私たちはもう少し敏感になるべきかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 シルバー民主主義を考える(上)「多数決」の壁乗り越えよ(日本経済新聞 2017年5月3日)
*2 シルバー民主主義を考える(中)抜本改革へ超党派合意を(日本経済新聞 2017年5月4日)
*3 シルバー民主主義を考える(下)選挙制度の大胆改革急げ(日本経済新聞 2017年5月5日)
*4 【図解・政治】参院選/年代別投票率の推移(2016年7月)(時事ドットコム 2016年7月11日)