増え続ける認知症高齢者。認知症であることにできるだけ早く気付き、治療を始めることが必要だといわれています。国も2015年1月に発表した認知症対応の施策「新オレンジプラン」で、「早期受診・早期対応」を方針として掲げました。実際、「物忘れが気になって」と受診する高齢者は増えています。
ただ、この早期受診、いいことばかりではありません。正しく診断してくれる医師につながらないと、違う病気なのに誤って認知症と診断されてしまうこともあるのです。
専門医の8割が、「認知症との誤診を発見」と回答
NHKが認知症専門医を対象にした調査では、回答した531人の専門医の8割が「認知症ではなかったケースがある」と答えています(*1)。人数でいうと、3500人もの人が認知症以外の病気なのに、認知症と診断されていたというのです。間違えられやすい病気として、主に
「うつ病」「てんかん」「正常圧水頭症」「慢性硬膜下血腫」の4つがあります。
みなさんの職場にも、認知症と診断されているけれど実際は違う、という人がいるかもしれません。4つの病気の特徴を以下にまとめたので、見てみてください。
●うつ病
高齢者のうつ病の場合、悲しさの訴えや気分の低下はあまりなく、意欲や集中力が低下したり、気持ちが大きく動くことが少なくなったりするなどの特徴があります。
「物忘れが増えた」といった記憶力低下の訴えも多いため、認知症と誤診されやすいのです。しかしこれこそが、うつ病である可能性を示す症状。特に65~75歳の比較的「若い」高齢者でこうした傾向が強いため、注意が必要です(*2)。また、「うつ病」は女性に多く、身体の病気を抱えている人、離婚や死別を経験した人、過去、「うつ病」にかかった人がなりやすいと言われています。
●てんかん
「てんかん」というと、身体を突っ張らせるけいれん発作をイメージしがち。また、子どもに多い病気と思っている人も多いようです。しかし、実は高齢者の1~2%は「てんかん」患者だという海外のデータもあり、決して少なくない病気(*3)。しかも高齢者の場合、けいれんを伴わない発作が多いため、「てんかん」だと気づかれないケースが少なくないといいます。
けいれんを伴わない発作の症状としては、一時的に意識を失ったり、目の焦点が合わずにぼんやりしたり。発作の間の記憶がないことが多いため、認知症の症状と間違われてしまいやすいのです。
●正常圧水頭症
くも膜下出血や髄膜炎、頭部外傷などが原因となって、脳に髄液がたまりすぎることで起こります。髄液が脳を圧迫し、徐々に認知症のような症状が現れます。記憶障害より集中力や意欲の低下が目立つほか、小股でヨチヨチ歩いたり、Uターンがしにくくなったりするなどの歩行障害、尿失禁などの症状がよく見られます。
認知症と診断された高齢者のうち、5~6%は「正常圧水頭症」ではないかとの説も(*4)。「正常圧水頭症」は、手術で髄液が適切に流れるようにすることで脳の圧迫が解消され、認知症のような症状が劇的に改善されることが多いと言われています。
●慢性硬膜下血腫
頭部外傷によって脳内の血管が切れ、脳に徐々に血がたまることで起こります。酔って転んだ、床に落としたものを拾おうとしてテーブルに頭をぶつけたなど、本人も覚えていない程度の外傷でも起こります。
症状は、時間や場所がわからなくなる見当識障害、注意力の低下、耳から聞いたことを理解する力が衰える、計算ができなくなるなど。こうした症状が、数週間から数カ月かけてゆっくりと現れるため、認知症と間違われやすいのです。頭痛や吐き気を伴うこともあります。手術で血腫を取り除くことで、劇的に症状が改善することも多いため、早めの受診で脳画像の診断を受けることが大切です。
介護の専門家として受診のアドバイスを
認知症に似ているけれど、何か違う。介護職のみなさんがそう感じたときには、こうした他の病気のことを思い出してほしいのです。日々の生活を見ている介護職の方なら、認知症とは言いきれない、違う症状、あるいは、頭をぶつけたなど、違う病気の原因となる出来事があったことにも気づけるはず。認知症では、と思い込んでいる本人や家族が、まだ認知症専門医を受診していない場合は、ぜひ受診を勧めてほしいと思います。
「介護と医療の連携」ということがよくいわれています。何だか難しそうに思えますが、高齢者の日常をしっかり見ているのが介護の専門性。その専門性から得た情報を医療にわかりやすく伝えて正しい診断をしてもらい、それに基づいて適切な介護をしていくこと。それこそが、介護と医療の連携です。
診断に役立つ適切な情報提供をしてくれる介護職は、医療職にとっても心強い存在のはず。
観察から得た情報を医療にわかりやすく伝え、ぜひ高齢者の支援に役立ててほしいと思います。
<文:宮下公美子>
*1 認知症でないのに認知症と診断 3500人余 (NHK NEWS WEB 2015年8月5日)
*2 高齢者のうつについて (厚生労働省資料)
*3 日本神経治療学会 標準的神経治療:高齢発症てんかん (日本神経治療学会治療指針作成委員会作成)
*4 正常圧水頭症 (難病情報センター)