■書名:死を前にした人にあなたは何ができますか?
■著者:小澤 竹俊
■出版社:医学書院
■発行年月:2017年8月
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終末期の高齢者に何ができる?看取りに悩む介護職も目を通したい一冊
死は誰にでも必ず訪れる。だからといって、それを最初から心穏やかに受け入れられる人は多くない。
これまでの生活ができなくなり、生きている意味を見出せず苦しむ人を支えるにはどうしたらよいのか?
口先だけの安易な励ましや取り繕いは通用せず、どんなに発達した医療技術も死を取り除くことはできない。
そのような死にゆく人との関わり方を具体的に示してくれるのが本書だ。
在宅医である筆者の小澤さんは20余年もの間、緩和ケアに従事し、死を前にしての絶望と思える苦しみや、解決できない困難を抱えた患者や家族に多く関わってきた。
その豊富な経験をもとに、死を前にした人と関わるすべての職種の人ができる援助とは何かが丁寧に書かれている。
本書では、序章で援助方法の全体像を大まかに紹介したあと、それぞれを詳しく説明しているので、流れがつかみやすい。そのうえ、挿絵や重要な部分にはアンダーラインが引かれており読みやすくなっている。
第1章の「援助的コミュニケーション」は、最も重要で基本的なこととして下記のように書かれている。
<ここでのポイントは、「苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい」ということです。言い換えれば、どれほど資格を持ち、知識があったとしても、苦しむ人からみて“わかってくれる人”にならなければ、苦しむ人への援助を行うことは難しいでしょう。
では、どんな私たちであれば、相手から見て“わかってくれる人”になるのでしょう?
励ましではありません。説明でもありません。“聴いてくれる私”です。>
相手を完全に理解することはできなくても、相手が「私を理解してくれたと思う」ことが大事で、そのためにはまず相手の言うことを聴くことであると解説されている。
第2章「相手の苦しみをキャッチする」では、相手の苦しみに気づく感性を養うために「苦しみの構造」を解説。
「苦しみは希望と現実の開き」と捉え、答えることができる(解決できる)ものか、そうでないものかに分けられるという。
第3章「相手の支えをキャッチする、強める」では、人は解決できない苦しみの中でも、穏やかさを取り戻すことがあり、それは支えがあるからである、といっている。
その支えとは「将来の夢」、信頼できる誰かとの「支えとなる関係」、穏やかになるために「選ぶことができる自由」の3つ。
選ぶことの自由を見つけるためには、心が落ち着く環境・条件、尊厳、ゆだねるなどの9つの視点がある。
第4章「自らの支えを知る」では、援助者自身の問題にも触れている。
援助者が苦しむ人の力になれないときでも、逃げないで関わり続けるために「これで良い」という言葉がある。これは援助者の周囲にいる人たちから与えられる“赦しの言葉”だという。
<あなたは、今まで決して1人で生きてきたわけではありません。平坦な道だけではない中で、多くの人の支えがあったことでしょう。
支えてくれた人として、今まで出会い、お別れした多くの患者さんや家族の方の顔が浮かぶ人も多いと思います。
その1人ひとりの思いが、今のあなたを知らない間に支えてくれたことに気づく時、たとえあなたが「力になれない私」であったとしても、彼らは「これで良い」と赦してくれるでしょう。>
第5章「援助を言葉にする」では、これまでの内容を具体例にあてはめて解説している。
介護の現場などで、実際に死に関わっていくときの参考となるようになっている。
本書は、死を前にした人の苦しみを完全になくすことはできないと明記した上で、何をすべきかを提示した現実的で具体的な参考書である。一方で、援助する人への気持ちにも配慮された内容となっている。
看取りの現場に苦手意識のある介護職・医療職なら、一度目を通してみるとよいのではないだろうか。
著者プロフィール
小澤 竹俊(おざわ・たけとし)さん
1987年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。1991年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院内科・ホスピス勤務。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。
「ホスピスで学んだことを伝えたい」との思いから、2000年より学校を中心に「いのちの授業」を展開。一般向けの講演も数多く行う。2015年、有志とともにエンドオブライフ・ケア協会を設立、理事就任。多死時代に向け、人生の最終段階の人に対応できる人材育成に努めている。