■書名:できることを取り戻す 魔法の介護
■著者:にやりほっと探検隊(長谷工シニアホールディングス)
■出版社:ポプラ社
■発行年月:2017年5月
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注目の取り組み!高齢者の「できること」を増やす介護
高齢者や認知症の人をケアする現場で、入居者の「笑顔」に着目し、「できること」や「好きなこと」などのプラス面を見つけて、ケアに生かしていこうという取り組みが注目されている。
それは、長谷工シニアホールディングスが展開する施設で独自に生まれ、全社的に進めてきた「にやりほっと」という活動だ。
笑顔が増えたり、歩けるようになったりと、その成果にはめざましいものがあるそうだ。
「にやりほっと」の活動とは、「ヒヤリハット」の反対で、入居者やスタッフが「にやり」としたり「ほっと」したりしたことを大切にする取り組み。入居者の笑顔を見つけて記録し、スタッフ間で共有する。
彼らの笑顔から「できること」「得意なこと」「今までやってきたこと」「好きなこと」「やりたいこと」を探り、個性に合ったケアにつなげていくのだという。
ケアにおいては、安全の確保が最優先なのは言うまでもない。
だから通常の介護では、事故を未然に防ぐために「ヒヤリハット」に気をつけながら、食事や排泄などの身の回りのケアを安全に効率よくこなすことをめざす。
それに対して「にやりほっと」は、一歩進んだ新しい発想による取り組みといえるだろう。
<「にやりほっと」は高齢者のできないことをケアするだけでなく、できることを積極的に探し、できることをさらに増やしていく介護とも言えます。「できること」を探し、記録し、可視化する――、こういった視点による取り組みは、これまでの介護にはなかったものだと考えています。>
本書で紹介された事例の中で、特に印象的だったのは、認知症が重度に進んだ92歳の女性のエピソードだ。
ほぼ寝たきりだった人が、お米とぎをきっかけに、食材切りや盛り付け、さらには車イスなしで散歩にも出かけられるようになったのだという。
まさに「できることを積極的に探し、できることをさらに増やしていく介護」の一例だ。
当時この女性は、毎晩夜中に何度も起きては「お米といでありますか?」とスタッフに確認する状態が続いていた。スタッフは話し合いの結果、思い切ってお米研ぎをこの女性にお願いしてみることに。
そうすると、女性は自分の足で立ってお米をとぎ、とぎ終えると達成感にあふれる笑顔を見せてくれたのだそうだ。
それ以降はゆっくり眠れるようになったばかりか、お米研ぎという役割ができたことで表情も行動もはつらつとし、次々といろんなことができるようになったという。
本書では、こうした「にやりほっと」の事例から得られた心得やノウハウが、わかりやすくまとめられている。
「得意」や「好き」から「できること」を探すこと、「役割」が元気をつくること、「好きなこと」を発見して共有する方法、「すぐに手を出さない」コツなど。
認知症に限らず介護全般に向き合う人にとって役立つ知恵が詰まっている。
図説も豊富でわかりやすく、やさしい言葉づかいで書かれているので、どのような立場の人でも読みやすいはずだ。この「魔法の介護」を理解し実践につなげていけるなら、介護する側の笑顔も増えていくのではないだろうか。
著者プロフィール
にやりほっと探検隊(長谷工シニアホールディングス)
長谷工シニアホールディングスが運営する施設において、介護の現場や介護スタッフの職場を改善しようと、スタッフが中心となって始まったプロジェクト。
長谷工シニアホールディングスは、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、認知症グループホーム、認知症デイサービス、訪問介護事業所などを展開。現在、グループ3社の事業拠点は約100カ所、入居者・利用者の合計は約4,000名にのぼる。