■書名:認知症の人の心の中はどうなっているのか?
■著者:佐藤 眞一
■出版社:光文社
■発行年月:2018月12月
>>
『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』の購入はこちら
よりよい介護のために、まずは相手をきちんと知ること。
徘徊する、日常会話が成立しない、暴言を吐く、入浴を嫌がる。
認知症の方を介護していると、何かしらのトラブルが生じるというのは、介護職なら誰もが経験していることだろう。
そんな時こそ、「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」と思うのではないだろうか。
それがそのままタイトルになり、認知症の人の心の中を詳しく解説しているのが本書だ。
認知症は、残念ながら医療法も予防法も決定的なものはなく、ケアの充実度を高めることしかないのが現状だ。
認知症の人が自分らしく幸せな日々の生活を送るためのケアの質を高めるには、日常生活の基本ともいえるコミュニケーションが重要となる。
そこで、著者の佐藤さんは、2016年に自身の研究グループで、認知機能の評価ツールである
「CANDy(日常会話式認知機能評価)」を開発した。
CANDyでは、認知症になるとよく見られる会話の特徴15項目をチェックすることで、認知機能を評価することができる。
このテストから見えてくる
認知症の人の心理を解き明かしていくのが本書の狙いだ。
本書の構成は以下のようになっている。
第1章 認知症の人との「会話」を取り戻す
第2章 認知症の人のコミュニケーションの特徴を知る
第3章 認知症の人が見ている世界を知る
第4章 認知症の人の苦しみを知る
第5章 共によりよく暮らす方法を知る
第1章では、CANDyの内容、指標となる会話の特徴が解説され、実施する際に具体的にどのような言葉を使えばいいのかについて述べられている。
第2章では、コミュニケーションが取りにくくなる重要な要因の一つである「社会的認知」の低下について解説。
第3章では、記憶や注意のしくみ、アルツハイマー型認知症など認知症を引き起こす代表的な病気、予防法など、医学的な知識が説明されている。
第4章では、認知症になった時に当事者が直面する苦しみについて、具体例を交えて説明。
最後の第5章では、認知症の人の生活の障がいや苦しみを少しでも軽減し、より良い関係を築くための方策を紹介している。
どの章もわかりやすい小節で構成されていて、具体例も豊富でとても読みやすい。
特に第4章は、認知症の人の苦しみを次のように4つに分けて紹介。
(1)自分が自分でなくなっていく苦しみ
(2)日常生活ができなくなる苦しみ
(3)「未来展望=希望」を失う苦しみ
(4)自分だけが別の世界に生きる苦しみ
具体的で丁寧に心理状態が説明されているので、ケアをする立場の介護職にとっては参考になるのではないだろうか。
介護者が問題行動と考えてしまうことでも、苦しみ・理由が背景にあることがわかれば、接し方も変わってくるはずだ。
第5章は「“虐待”は、なぜ起こるのか」という小節から始まる。
介護現場で起こり得る具体的な虐待行為が挙げられており、介護する側の都合・事情からすれば虐待ではないと思われることでも、介護を受ける側から見ると実は虐待だと指摘されていることに、どきりとさせられる。
また、介護を受ける人は、いろいろ世話をしてもらっているのに、何もお返しができないことに負い目を感じることもある。
その負債感を減らすために、
介護を受ける人から介護者に対して「ありがとう」と言える場面を設けることが大事だという。
たとえば洗濯物をたたむというような簡単な作業をしてもらって、「ありがとう」と伝える。
それだけでも介護を受ける側の心理は違ってくるのだ。
些細なことで介護を受ける人の心の負担を減らせるのであれば、現場で実践してみる価値はありそうだ。
<認知症の人の世界を大事にするとは、言い換えれば、認知症の人の立場に立って考えることです。「何でそんなことをするのだろう?」と思ったとき、ともすれば私たちは、私たち自身の常識を当てはめて考えてしまいがちです。それでいい場合もありますが、基本的にはいったん常識を捨てて、相手の立場に立って考える必要があります。>
認知症の人にとって、日々の生活を穏やかに過ごすことが最良のケアであるなら、相手の立場に立って介護することはケアの基本となる。
わかっているつもりでも、日々の介護の中でその基本を常に考えているのは難しいかもしれない。
本書を読んで、よりよい介護を目指すきっかけを作られてはいかがだろうか。
著者プロフィール(引用)
佐藤 眞一(さとう・しんいち)さん
大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学研究分野教授、博士(医学)。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程を終え、東京都老人総合研究所研究員、明治学院大学文学部助教授、ドイツ連邦共和国マックスプランク人口学研究所上級客員研究員、明治学院大学心理学部教授を経て、現職。前日本老年行動科学会会長、日本応用老年学会常任理事、日本老年社会科学会理事等を務める。