■書名:高齢者救急 急変予防&対応ガイドマップ
■著者:岩田 充永
■発行元:医学書院
■発行年月:2010年7月15日
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高齢者の不調にどう対応する? 迷いやすいケース別に救急対応を解説
高齢者救急の対応は、介護現場で働くスタッフにとって頭を悩ませる問題の一つだろう。たとえば「37.6℃の熱がある」場合に「微熱だから大丈夫」と判断しても良いのか? あるいは「めまいを訴えているが、症状は軽そうだ」という場合はどう対応すべきか?…など。
対応に迷うのは、高齢者救急ならではの判断の難しさがあるからだ。たとえば、高齢者は感染症にかかっても高熱が出ないケースがあると言う。微熱でも重症な感染症が隠れている可能性もあるのだ。高齢者は症状が出にくいという特徴を理解しておかなければ、判断を誤る恐れがある。
そこで本書は、発熱や貧血、食欲、便秘などの注意すべき項目をピックアップし、高齢者の身体的・生理学的特徴を解説。加齢による生体への影響を紹介すると同時に、利用者の不調を「年のせい」と安易に考える危険性についても注意喚起している。
そして本書のメインが、高齢者救急のケース別アセスメントと、初期対応の解説ページだ。取り上げる事例は「元気がなくて動けない」「転んで怪我をした」「呼吸が苦しそう」など、介護現場で判断に迷いやすい13のケース。それぞれのケースにたっぷりページを割き、初期対応のアプローチから注意点まで、丁寧に解説する。
初期対応でどんな疾病を予測し、どういう点に気をつけるべきかが流れに沿って説明されている。利用者の命を守るために一番にしなければいけないことが理解しやすい内容だ。また、高齢者の救急で陥りやすい間違いもポイント立てて紹介。チャートや図表を効果的に使って整理されているので、医療従事者以外でも読み進めやすい。
高齢者救急はけっして医療従事者だけの問題ではない。著者の岩田充永さんも、高齢者救急について、次のように述べている。
<患者さんやご家族の幸福につながるためには、看護師、介護福祉士、薬剤師、医師など多くの職種の“アンサンブル”がとても重要であると日々実感しています。>
救急医療の現場では、的確な情報を集めてスピーディに判断を下していかなければならない。高齢者救急の難しさは、まさにそこだ。痛みを感じにくくなっていて症状に気づくのが遅れたり、病気以外にもさまざまな問題があったり。なにより、本人から的確な症状や情報を得られるとは限らないからだ。だからこそ、日頃の状態や既往症(以前かかったことのある病気や外傷で、現在は治癒しているもの)、体調の変化を把握している介護職の果たす役割は大きい。
利用者の不調に気づいたとき、すぐに救急車を呼ぶべきかの判断をはじめ、医師や看護師に相談する際に何を伝えるかも大事なポイントだ。そのために介護職が知っておくべき情報や知識を本書が教えてくれる。ケースごとに整理されているので、職場の勉強会などに利用しても良いかもしれない。
著者は、読者へのメッセージとして次のような恩師の言葉を紹介している。
<老年医学とは想像と優しさの産物である。いろいろな病気や怪我を経験した医療従事者はいても、誰も老いを経験したことはない。だから、老年医学には想像で臨むしかないのだ。想像のためには優しさが大切なのだ>
高齢者と関わるすべての人に当てはまる言葉として、心に留めておきたい。
<小田>
著者プロフィール
岩田 充永(いわた・みつなが)さん
藤田保健衛生大学救急総合内科に勤務。名古屋市立大学医学部卒業。名古屋掖済会病院救命救急センター勤務後、2012年10月より現職。主に老年医学、救急医学、内科学を研修。