雑貨店で楽しく販売の仕事をしていたRさんが、ある日直面した「介護」。
ふとしたきっかけで地元のデイサービスで働いたあと、縁あって瀬戸内海の島に渡り、今は小規模多機能型居宅介護のデイサービスや事務部門で勤務しています。
都会の暮らしから島に移住し、そこで見つけた介護のやりがいとは? その転職体験談をインタビュー。
第2回の今回は、思い切って島へと住まいを移して転職もしたRさんが悩み、苦しんだことについてお伝えします。
*R・Hさんの「転職体験談」
第1回:販売員から介護士へ!30代後半での転職のきっかけとは?/転職体験Rさん1
第2回:施設によって全然違う!転職後に感じた仕事への疑問/転職体験Rさん2(今回)
第3回:まさに「理想の介護」。幸せなのは利用者さんだけじゃなかった!/転職体験Rさん3
第4回:介護は学びの多い仕事。まだまだ勉強したい!/転職体験Rさん4
初めての介護職として働いたデイサービスは、理念やていねいな介護技術を学ぶには、とてもいい職場でした。
ただ、デイサービスの職員は、レクリエーションを考えて、みなさんを盛り上げるのが大きな仕事。
人前に立ってレクリエーションをするのがちょっと苦手な私にとっては、本当に合っている仕事なのか、少しずつ悩みも出てきました。
先輩や同僚は、やるとなるとスイッチが入ってハイテンションになるのですが、どうにも自分はもたもたしてしまって。
レクのネタは限られるし、戸惑っているからおもしろくないのかもしれなくて……。
自分でも「盛り上がらないなぁ、これでは利用者さんたちはおもしろくないんじゃないか」と、いつも自信を持てない時間を過ごしました。
3年ほど勤務してから、転職することにしました。
事業所に大きな不満はありませんでした。
けれど、都会から離れて生活したい、と考えて、瀬戸内海の島に移住することにしたのです。
離れがたいデイサービスでしたが、新天地で新しい暮らしをしてみたいという気持ちが高まりました。
そして、島にも介護施設がいくつかあるのを確かめて、介護職として就職しようと思っていました。
■条件は勤務地だけ。デイだから転職前と仕事は同じ?
一度でいいから都会を離れ、自然豊かな島で暮らしたい、という思いがつのり、仕事を辞めて島暮らしが始めることにしました。
家賃は安いし、野菜や果物も安い。生活費はあまりかかりません。
だからそれほど給料が高くなくてもいい、と思っていました。
ただ、車を持っていなかったので、徒歩で行ける職場を探さなくてはなりません。
そこで、とにかく住まいから近いところ、という条件で、徒歩12分のデイサービスに勤務することにしました。
またテンション高くレクリエーションをすることになりますが、とにかく近いことが一番、慣れたデイサービスだから、それでいい、と思っていました。
転職したのは、診療所が経営するデイサービス。
こんなに豊かな島なのに、なぜかここはせかせかしているのに驚きました。
利用者さんが35人もいて、毎日小さな部屋がごったがえしている。
利用者さんを朝迎えると同時に、分刻みで仕事をしないと回りませんでした。
■条件で選んだ転職先での仕事に疑問を感じるように
入浴、食事、おやつ、排泄介助……。
時間に追われて、以前の職場のように、ひとりひとりのお話を聞いている余裕がありません。
職員たちも、「仕事をこなす」感覚になっていて、利用者さんが要望を出しても、うまくかわしていつものペースをくずさないようにしているのです。
なんだか殺伐としていて、「これでいいのか」と疑問に思いながらの勤務でした。
けれど、この島では、転職したいと思っても、歩いて行けるような距離には、ほかに事業所はありません。
半ばあきらめて、ほかの職員のペースに合わせていると、自分が何をしたいのかが、だんだんわからなくなっていきました。
■お給料は気にしないで転職したけれど…
転職先のデイサービスでもうひとつ悩んでいたのは、「給料」のことでした。
島での暮らしにいくらお金がかからないといっても、月に12万円弱の給料だと、家賃を払って生活費を使うと、あとはほとんど残りません。
実家への仕送りや貯金にも、ほとんどお金を回すことはできなくなってしまいました。
このままずっとこの給料で暮らすのかと思うと、自分の老後はどうなるのかと心配になったのです。
忙しさを感じながら、仕事に対する疑問を抱き、それでも仕事を回していかなければならない現状に、ストレスを感じる日々。
それが、疲れをためることになったのでしょうか。
「腰がちょっと痛いな」という感覚がだんだん大きくなり、毎朝起きるのもつらくなってきました。
そのうち、突き刺すような痛みで、起き上がれなくなって……。
診療所の整形外科部門に見てもらったところ、ヘルニアだと言われました。
注射を打ちながら痛みを散らし、がんばったのですが、もうムリ、となってしまって。
整形外科のドクターも「休んだほうがいい。必ず治るから、ゆっくりして少しずつ直しなさい」と言ってくれました。
医師が診断書を書いてくれたので、労災を使って2カ月休業することにしました。
ただ、ひとり暮らしですから、買い物や洗濯、掃除など、家事はしなければなりません。
食材を買いに行くのも腰がつらくて大変でした。
職場の仲間が心配してきてくれて、何かと世話をしてくれたのがうれしかった。
腰を痛めてから、介護をしてもらう利用者さんの気持ちが少し分かるようになった気がしました。
ただ、出勤したいと思っても、身体がなかなか元に戻りません。
「そろそろいいかな」と思っても、たくさん身体を動かすと、痛くて寝込むようになってしまうのです。
いったいいつになったら働けるのだろう、元気になるのだろう。
ひとり暮らしでモンモンとし、腹を割って話せる人もいなくて、不安にかられていました。
もし出勤しても、あの忙しい現場に帰ったら、すぐに腰が痛くなるのが見えています。
それに、仕事を「回す」という感覚で、ひとりひとりのケアを犠牲にしながら働くのかと思うと、復職の勇気もわいてきません。
いったい自分はこの先どうやって暮らしたらいいのか……。
心細くて泣きそうになったとき、職場の仲間が訪ねてきてくれました。
彼もまた、「仕事をそつなく回す」という仕事に疑問を感じ、近々やめるという噂の人でした。
そして、思いがけないことに、彼は私にこう言ったのです。
「今度、新しく小規模多機能型居宅介護を立ち上げる人がいるんだ。僕と、そのほかにも数名、そこで働くことになっている。
Rさんの家に近いし、徒歩で勤務できるよ。来てみないか?」
びっくりしました。
おみまいかと思えば、転職の打診だったんです。
次回は、2回目の職場で働き始めるRさんの毎日をお伝えします。
*R・Hさんの「転職体験談」
第1回:販売員から介護士へ!30代後半での転職のきっかけとは?/転職体験Rさん1
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社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
幅広くライターとして活動中、親の介護を機に2012年に社会福祉士国家資格を取得。以後、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
現在は介護、医療、教育、子育て、食などのテーマを中心にWEB・雑誌・書籍などの記事執筆を多数担当。
社会福祉士、介護職員初任者研修、福祉住環境コーディネーター2級。
幅広くライターとして活動中、親の介護を機に2012年に社会福祉士国家資格を取得。以後、法定成年後見人として支援が必要な方の財産管理や身上監護も行う。
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