体調不全や人間関係の難しさで何度か退職を重ねてきたTさん。でも、「腰を据えて働きたい」という思いは常にありました。
自分に合った環境、自分に納得のいく介護ができるホームを探し続けて13年。妥協せずに突き進んだら、「まだ確信するには早いけど、おそらく理想に近いホームに出会えた」と言います。
職場に納得がいかないときは、退職して派遣や非常勤でつなぎ、「働きながら模索する」を続けて来たTさんのねばりと情熱が今、実を結ぼうとしています。
派遣や非常勤としての働き方をこんなふうに活用する方法もあるのですね。みなさんも参考にしてはいかがでしょうか。
*T・Mさんの「私が転職した理由」…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
T・Mさん(33歳)のプロフィール・転職経験
●介護業界歴…13年
●介護の仕事に就く前…福祉専門学校
●介護業界での転職回数…5回
●いままでの勤務先…特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホーム、デイケア
●保有資格…介護福祉士
特養サブリーダーの「上から目線」がいやだった
高校時代は、将来に特に大きな夢も持たず、かといってサラリーマンになりたいわけでもありませんでした。
福祉の専門学校に入ったのは、おばあちゃん子だったからかもしれません。おばあちゃんに喜んでもらえる仕事はないかな、と思ったときに、ふと福祉関係がいいんじゃないかと、思いついたんです。
それは間違っていなかった。学校での勉強は楽しかったし、実習も役に立ちました。
そして、就職のときは、実習先の特別養護老人ホーム(特養)の雰囲気がすごくよかったから、ここがいい、と思っていて。
でも、落ちてしまったんです。それでしかたなく、別の特養に就職しました。
そこは、自分が思う老人ホームとはまったく違って、利用者さんをモノのように扱うところでした。
車椅子の利用者さんが、何かしようとして席から立ちあがろうとすると、「座ってて! 危ないから立ち上がらないで!」と、サブリーダーの女性が怒鳴るんですよ。
車椅子でも立ち上がれるのなら、だれだって立ち上がりたいのはあたりまえ。
危ないと思うのなら、駆け寄って、「さあ、どこへ一緒に行きましょうか」と、声をかけ、背中を手で支えて話しかけるのが筋ですよね。今なら僕もスッとそうできます。
でも、当時は新人だったので、ただ不快だな、と思うだけで、どうしたらいいのかわからなかった。
たちすくんで、「あのサブリーダーがいやだ」と思うしかなかったんです。
その後もどうにもいやだな、と思うようなことがいくつもあって、思い切って上司に相談したんです。
でも、上司はのらりくらりと返事をはぐらかせて、めんどくさそうに、「なんとかうまくやってください」と言うだけでした。
実際、ギリギリの人数で回していたので、もし注意してだれかひとりでも辞められたら、もうシフトが回らなくなるのは目に見えていました。
食事介助、排せつ介助、入浴介助を忙しくやっているだけで1日が終わってしまう。
最初のうちは、「利用者さんに感謝され、笑顔になってもらえる介護がしたい」と思っていたけれど、忙しさにだんだん疲れてきて。
こんなことをしていたら、自分もあのサブリーダーみたいになってしまう、と思い始めた矢先、事件は起きました。
利用者さんのけいれん、救急搬送、そして…
朝から、その利用者さんは熱がありました。
僕は夜勤だったのですが、日勤の職員は「ちょっと心配だね。夜中に熱がひどくならないといいけれど」と言いながら、申し送りしてくれました。
ところが夜になると、熱が下がるどころか、もっと上がって来て。夜中に部屋を見に行ったら、けいれんしているんです。
パニックになりました。
数秒が数時間にも感じられるほどの時間感覚の中で、あわてて看護師にオンコールすると、「今すぐ救急搬送して!」と電話の向こうで怒鳴り声が。
震える手で慌てて119番しましたが、その利用者さんは、病院で亡くなりました。
亡くなったと聞いて、脚ががくがくしました。みんなは慰めてくれたし、「見に行ったらけいれんしていたのだから、しょうがない」と言ってくれましたが、「自分のせいだ…」という気持ちばかりが強くなって。
その後も、何度も何度もそのときの夢を見て、そのうち鬱になりました。
もう、働く自信がない。介護なんて自分には無理なんだと、絶望しました。
そして1年弱の勤務でしたが、僕は辞表を書き、職場を去りました。
次回は、派遣で介護の仕事に就き、デイケアでの勤務も経験するTさんの様子をお伝えします。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*T・Mさんの「私が転職した理由」…1回目、
2回目、
3回目、
4回目(最終回)はこちら
●先輩たちの職場選びの失敗事例に学ぼう
→ 「こんなはずじゃなかった…」 転職先選び 私の失敗談
●○● 介護業界で転職する時の 基本ノウハウ ●○●
介護求人ナビの求人数は業界最大級! エリア・職種・事業所の種類など、さまざまな条件で検索できます