毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は「私はヘルパー、親は要介護なのに…」という話題について紹介します。
若いヘルパーより自分がやった方がマシ…
厚生労働省が5月15日に発表した「介護保険事業状況報告(暫定)」(*1)によれば、2015年1月の要介護(要支援)認定者数は600万9000人で、このうち男性が184万8000人、女性が416万1000人。日本国民の20人に1人が要介護・要支援者という状況だ。
もちろん、この数字はあくまで「要介護認定の手続き」をした人の数。実際には、手続きをしていない“潜在”要介護者がさらに大勢いる。
こうした状況に伴い、介護業界ではかねてより介護の人手不足が叫ばれているが、訪問ヘルパーのMさんは“介護のミスマッチ”に悩まされている。
現在30代後半のMさんは、10年ほど前からヘルパーとして働いており、母とともに実家で暮らしている。最近、80代の母が心身ともに弱り始め、当初はMさんが母の身の回りの面倒を見ていた。
しかし、そのうち負担が大きくなり、「介護保険サービスを使わない手はない」と、要介護認定を申請。母は要介護認定を受け、訪問ヘルパーが来るようになった。
しかし“プロ”として日々、介護に携わっているMさんは、母の介護をしにやって来る若いヘルパーの仕事ぶりがどうにも気に入らなかった。
明らかにスキル・経験不足と思われる彼女たちの仕事ぶりに呆れたMさんが、「これなら私がやった方がマシだわ」と話せば、母も「アナタの方が気楽でいいわ」と、2人の思惑は合致。そこで考えたのが、「自分がヘルパーとして母のもとに派遣される」という方法だったが、事業所にはあっさり却下されてしまった。
自分の親の介護が出来ない…ヘルパーのジレンマ
Mさんは知らなかったそうだが、介護保険法には、「指定訪問介護事業者は、訪問介護員等に、その同居の家族である利用者に対する訪問介護の提供をさせてはならない(一部例外を除く)」(*2)と定められており、ヘルパーが同居の親族にサービスを提供することは原則禁じられている。確かに身内の介護に対して給与が支払われるとなれば、不正の温床となるのは火を見るよりも明らかだ。
都内の事業所で働くヘルパー・Hさんによれば、ヘルパー2級(現在は「介護職員初任者研修」という資格がこれに準じる)を取得する人の中には、親の介護のために資格を取得する人も多かったそうだ。確かに専門的な知識があれば、より楽に、より安全に家族の介護をすることが可能となる。
今回のケースでは、もちろんMさんが母親の面倒を見れば、「親の介護」という面では全てが解決する。しかし、その結果、収入が減ったり、途絶えてしまえば、生活が立ち行かなくなるのは必然のこと。
かくしてMさんは、介護を必要している母を自宅に置いて仕事に出かけ、他人の親を毎日介護する日々を送っており、目下そのことが大きなストレスになっているそうだ。
*1 介護保険事業状況報告(暫定)2015年5月15日 厚労省発表分(PDF)
*2 介護保険法 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準