「栄養ケア・ステーション」が増加。在宅介護・在宅診療への関わりにも期待
栄養士、管理栄養士(以下併せて、栄養士)が常駐し、食事や栄養についての相談に乗ってくれる「栄養ケア・ステーション(栄養CS)」が、各地で少しずつ増えています(*)。
日本栄養士会が「栄養ケア・ステーション」を登録商標とし、2018年度から認定制度をスタートさせたことから、認知度が高まってきました。
栄養ケア・ステーションは、コンビニや薬局などに併設し、利用客の食事や介護に関する相談に応じるケースのほか、栄養士が独立型の栄養ケア・ステーションを立ち上げ、有料で料理教室、健康相談などを行うケースもあります。
栄養士の職場はかつて、病院、高齢者や障害者、児童の施設などが中心でした。仕事は、主に献立の作成と調理。食事を食べる患者や利用者と直接接する機会が、ほとんどない職場も数多くありました。
そのため、在宅での訪問栄養指導に携わりたいと考える栄養士がいても、なかなかそのスキルを身につけるチャンスがありませんでした。
教科書に載っているような、疾患に併せた栄養成分とエネルギー量を考慮した食事の提案は得意。しかし、一人ひとりの家庭の状況、調理能力、経済力などを考慮し、在宅で継続可能な食習慣の改善方法をどう提案・指導すればいいかイメージできない。
そんな栄養士が多かったのです。
しかし、介護保険制度が始まり、在宅の要介護者に対する医療職等の訪問による健康管理や指導の「居宅療養管理指導」には、栄養士による「訪問栄養指導」も規定され、介護報酬が設定されました。
また、施設等の介護報酬では、「栄養マネジメント加算」「低栄養リスク改善加算」「経口移行加算」などが創設され、栄養士が関わって栄養改善に努める取り組みが評価されるようになりました。
介護報酬の創設を経て、栄養士の役割は、個々の利用者寄りになってきました。「栄養マネジメント加算」「低栄養リスク改善加算」「経口移行加算」などを算定している施設では、栄養士が介護職のカンファレンスに同席し、栄養改善や食形態の変更などについて助言する施設も増えてきました。
こうしたこともあり、栄養士の意識も変わっていきました。
できるだけ長く住み慣れた地域での生活を支える「地域包括ケア」の推進もあり、栄養士の役割も「治療」から「予防」に広がってきています。地域の栄養士同士の勉強会等で在宅療養者への訪問指導について学ぶ機会も増え、病院や施設から在宅に活躍の場を移す栄養士も増えてきました。
介護職の方も、以前に比べて、栄養士との関わりが深くなったと感じている方は多いのではないでしょうか。
栄養士単独での栄養指導に対する報酬はゼロ?!
しかし、実は栄養士による介護保険の「居宅療養管理指導」は、栄養士単独で活動しても報酬は得られません。同様に、医療保険で規定されている、「在宅患者訪問栄養食事指導」にしても、医師が栄養指導等の必要を判断し、医師の指示書のもとで提供されなくては報酬が支払われません。
介護報酬や診療報酬は、指定を受けた介護保険事業所、あるいは保険医療機関に対して支払われます。しかし、栄養士が独自に訪問栄養指導のみを提供する事業所を立ち上げた場合、栄養指導だけで介護保険事業所や保険医療機関としての指定を受けることができず、介護報酬や診療報酬を受け取ることはできません。
つまり、在宅で訪問栄養指導に取り組みたい栄養士は、指定介護保険事業所や保険医療機関に所属するか、あるいは、何らかの形でこうした機関と契約を結び、報酬を受け取る仕組みをつくらなければ、在宅での活動に対する公的な報酬は得られないのです。
それは、冒頭で紹介した栄養ケア・ステーションも同様で、介護保険や保険医療機関としての指定を受けることはできません。
これは、栄養士にとって制度上の大きな課題です。在宅での栄養指導に取り組みたいと考えながら、この制度の縛りに苦しみ、思うような活動ができていない栄養士は少なくありません。
介護予防でどれほど筋力トレーニングに励もうとも、栄養が十分に確保されていなければ、筋力アップ、身体機能の十分な向上は図れません。
低栄養の改善を、「介護予防の最上流」だとも言う医療者もいます。栄養士がもっと自由に地域で活動し、予防的な活動ができる仕組み作りが待たれます。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*栄養ケア・ステーション 栄養士に直接相談 コンビニに併設/介護食のコツ習う(日本経済新聞 2019年2月20日)