介護保険の3割負担、ケアマネが感じた影響は「デイ」「福祉用具」
介護保険サービスの利用について、2015年8月から、一部利用者の利用者負担割合が2割に引き上げられてから3年。
2018年介護保険改正により、2018年8月には、現役並み所得者の負担割合が3割に引き上げられました。
2016年4月時点で、介護保険サービス利用者約496万人中、2割負担該当者は約45万人。このうち、約12万人が3割負担に引き上げられたとされています。
3割負担導入後、2回の請求業務を終えたケアマネジャーに、サービス利用の変化を聞くと、影響が出ているのは、主に「デイサービス利用」と「福祉用具レンタル」。デイサービスの利用回数を減らしたり、福祉用具レンタルを中止したりする利用者が一定数いるとのことです。
その一方で、訪問介護については回数を削減する動きは少ないといいます。
介護する家族のレスパイト(休息)の意味もあるデイサービスの利用は、家族が自宅でケアすることで削ることができても、自宅での日常生活を支えるホームヘルパーの利用は削りにくいようです。
しかし、デイサービスの利用を削減すれば、その分、家族の負担は増えます。家族の負担が増えれば、ストレスが高まり、家庭内でのトラブルや虐待などにつながる可能性も考えられます。
居宅サービスの担当者は、サービスを減らした利用者の家庭を、そうした視点で見守ることも必要になります。
「福祉用具利用に影響」と答えたケアマネは1割弱
福祉用具に関しては、「ケアマネジメント・オンライン」が2018年9月25日から10月3日に実施した調査によると、福祉用具利用に影響が出ていると回答したのは1割弱だったとのこと(*)。具体的には、
・ベッド柵を1本減らした
・車イス・歩行器をキャンセルした
・階段昇降機をやめた
・介護ベッドを単価の安いものに変更した
などの影響があったそうです。
筆者が聞いた具体例では、以前使っていたベッドを使うことにするから、介護ベッドのレンタルは中止する、という利用者がいたそうです。
背上げ、足上げがいらない人なら、介護ベッドをわざわざレンタルする必要はさほどありません。以前使っていたベッドでいいなら、なぜ介護ベッドをレンタルしたのかと、担当ケアマネジャーは感じた、と話していました。
1~2割の利用者負担で借りられるなら、ついでに借りておこう。そんな安易な気持ちで、福祉用具をレンタルする利用者は少なくないのかもしれません。
介護業界のために考えたい、低所得者の補助とサービス過剰利用への対策
ケアマネジャーの中には、経済的に困窮している利用者と比較して、「3割負担になる利用者は多くの場合、経済的に余裕がある人。深刻な影響は出にくい」と指摘する人もいます。
非課税世帯で、しかし生活保護にはならない人の場合、1割負担でも経済的にギリギリで、中には食費を削ってサービスを利用している人もあるからです。
一方で、所得が多い層の利用者負担割合をどんどん引き上げていくことが必ずしも良いとは思えない、と指摘するケアマネジャーもいます。そのケアマネジャーが提案するのは、全員の負担割合を2割あるいは3割に引き上げ、その代わり、低所得者への補助を手厚くすること。
現状、福祉用具に限らず、介護保険のサービスは、過剰利用が多すぎるとそのケアマネジャーは指摘します。利用者負担割合を引き上げることによって、過剰なサービス利用がカットされていくのではないかというのです。
利用者負担割合が引き上げられると、必ず利用者団体や介護事業者から、「サービスが利用できなくなり、利用者の生活が脅かされる」という意見が出されます。
確かに負担割合の引き上げで、生活が脅かされる人もいるでしょう。しかし、そうした人たちをすくい上げる仕組みを作った上で、過剰なサービスを減らす努力をしていかないと、このままでは介護保険を維持できなくなる日がやってくるかもしれません。
事業者は、サービスを提供し、収益を上げることも大切です。しかし、自分たちを養っているこの介護保険制度をいかに長く持続可能にしていくかという視点で、制度のあり方を考えていくことも大切にしたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1割近くのケアマネ「3割負担導入で福祉用具の変更や停止あり」(ケアマネジメント・オンライン 2018年10月22日)