全国で2000カ所を超える「子ども食堂」
子どもたちに居場所と食事などを提供する「子ども食堂」が増えています。支援団体の調査で、全国で2000カ所以上運営されていることが明らかになりました(*)。
自然発生的に各地で始まった「子ども食堂」の運営。当初は、家庭の事情などで、十分な食事を摂れていない子どもを対象にしているところが中心でした。
その後、「子ども食堂」の存在が知られるようになると、「子ども食堂」を利用している=貧困家庭であるかのように見られ、いじめの原因になるということも。「子ども食堂」を、本当に必要とする子どもたちが利用しにくい状況も生まれていました。
そうした状況を踏まえ、最近では、「みんなの食堂」などと名付け、不登校の子ども、引きこもりがちな高齢者など、さまざまな人たちを対象とするところが増えています。
「子ども食堂」は、担い手もさまざまです。地域のボランティア団体、民生委員、児童福祉サービスの事業者、高齢者介護サービスの事業者など。児童福祉や高齢者介護サービスを提供する事業者は、地域貢献や地域住民同士の交流などを意図して運営しているところが多いようです。
介護職員は調整役に。「子ども食堂」に関わることで高齢者の介護予防にも
場所を事業者が提供し、実際の運営は地域の高齢者ボランティア中心で行うというケースもよくあります。
料理上手な一人暮らしの女性が、イキイキと得意の腕前を振るったり。コマ回し、剣玉、将棋などが得意な男性が、子どもたちにその技を伝授したり。
「子ども食堂」での活動が、高齢者自身の生きがいや介護予防になることもあります。「子ども食堂」のような地域住民の支え合いの場づくりは、地域包括ケアの視点から見ても、住民主体の方が望ましいと言えます。
とはいえ、ある事業者は、こうした活動の運営をボランティアだけに任せきりにはしないと言います。料理の味付けの好みが違ったり、子どもへの接し方で意見がぶつかったり、そもそも活動への参加意欲に温度差があったり。そうしたことで、ボランティア同士が対立してしまうことがあるからです。
介護職や福祉職の職員が調整役として活動に加わり、ボランティアが活動しやすいよう、トラブルの芽を摘んでいきます。時には、ちょっとストレスが募っていると感じられるボランティアに声をかけ、愚痴の聞き役になることも。
そうすることで、ボランティア同士の対立が表面化しないうちに、上手に“ガス抜き”ができるのだそうです。
ボランティアの調整役を担うことで、職員の方も、表情や態度からその人の思いを推し量る力が養われます。トラブルを未然に防ぐ対応力も身につきます。そうした経験を通して、実は介護などのサービス提供だけに携わっているより、はるかに成長していくのだそうです。
また、地域住民同士の関係性などを知ることもでき、それが、次の「子ども食堂」での活動や本業である介護福祉サービスにもつながっていくのだと言います。
地域では、子どもから高齢者までさまざまな人が、さまざまな思いを抱えながら暮らしています。
その地域で事業を展開しているのも、何かの縁あってのこと。事業者にはぜひ我が町に目を向けて、「子ども食堂」をはじめとしたさまざまな地域活動に取り組んでほしいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*「子ども食堂」2000カ所超す(日本経済新聞 2018年4月4日)