介護予防やリハビリというと、運動器機能の維持・向上をイメージしがちです。運動器の機能訓練も、当然、大事。しかし、介護予防やリハビリでは、身体を作るもととなる食事への配慮が、より一層大切です。
1日3回、365日摂る食事を通して関われば、3回×365日、つまり1000回以上の改善アプローチができるからです。それだけ、“食”と“栄養”の見直しは、大きな改善効果が期待できるのです。
栄養改善で褥瘡が治った!
栄養指導、栄養改善による成果として、こんな例があります。
仙骨部(お尻中央の尖った骨の部分)と、かかとにひどい褥瘡(じょくそう)のある男性が、あるデイサービスの利用を開始しました。この男性は娘世帯と同居していましたが、娘夫婦はともに仕事が忙しく、介護に十分手が回らない状態。食事も十分に用意されていないことがありました。身長は170cm超なのに、体重は40kg台。女性1人でも抱え上げられるほどの軽さでした。
褥瘡治療のため皮膚科受診を勧めても、娘夫婦は忙しく対応が難しい状況。そこで、月曜日から金曜日まで利用していたデイサービスの看護師が、医師の指示を受けながら栄養改善による褥瘡の治癒を目指しました。
といっても、デイサービスの食事の献立は決まっていますから、この利用者だけ特別に食材を追加することはできません。そこで、経口栄養剤を来所時に2分の1本、帰宅前に2分の1本飲んでもらうことに。また、昼食時には、ご飯を必ず2膳食べてもらうことにしました。
こうした対応を続けたことで、1年間で体重は8kg増。体重が増えると共に、徐々に褥瘡もよくなっていったのです。穴があき、骨が見えるほどになっていた褥瘡に、徐々に肉が付き、治っていく。
そのさまを見て、関わったデイサービスの職員は感動すら覚えたと言います。
管理栄養士の訪問で閉じこもりが解消
栄養の専門家である管理栄養士は、病院や介護施設では多くの場合、厨房で働いています。病院で患者と接するとしたら、糖尿病やメタボ改善のために専門的見地からの「指導」を行うとき。一方、介護施設では、管理栄養士が利用者と接する機会はほとんどないかもしれません。しかし、それは実にもったいないことです。
“食”は、ほとんどの人が毎日口にし、心身の健康を守る基盤。これをきっかけに管理栄養士が直接関われば、支援を拒否している高齢者にも介入しやすいからです。そのため、積極的に在宅に管理栄養士を派遣し、栄養指導を行わせている自治体もあります。
ある団地に、2年間、家から出ていないという高齢の女性がいました。夫と二人暮らし。転倒による骨折で入院してから、長い距離の歩行が困難になり、閉じこもり状態に。外出しなくなってからはうつ傾向も表れてきました。うつは閉じこもりの原因となるだけでなく、食欲低下、嚥下機能の低下なども引き起こします。
ケアマネジャーがデイサービスに誘いますが、女性は「行きたくない」と拒否。低栄養が疑われたことから、今度は管理栄養士が訪問します。最初は、話しかけても返事もあまりありませんでした。しかし、訪問を重ねるうち、郷里の名産物や好きな食べ物など、徐々に話ができるようになっていきました。
管理栄養士が、利用者を栄養面から支援できる体制づくりを
そこから管理栄養士は、世間話に織り交ぜながら栄養についての情報を提供していきました。例えば、生協のカタログからの注文の際、どの食材を選べば栄養価が高いかといったことです。さらに、食事は管理栄養士が訪問している時間帯に摂ってもらうことに。
こうした働きかけで、女性は徐々に体重が増加。気分も前向きになっていきました。
この女性は、管理栄養士の声掛けにより、団地内の地域交流スペースに顔を出すように。今では、そこで近隣住民と一緒にお弁当を食べながら、おしゃべりを楽しむまでになりました。閉じこもりは解消されたのです。今度はケアマネジャーが管理栄養士と連携し、デイサービスにもう一度誘うことを計画しています。
食べ物の話は、誰でも比較的話しやすい話題です。これを、関係をつくる糸口とし、栄養に関する専門的な情報を世間話に織り交ぜていく。そんな支援は、栄養の専門家である管理栄養士だからできることです。運動によって身体機能を引き上げるにも、低栄養のままではけがのリスクが高まります。
管理栄養士が高齢者と直に接し、栄養面の課題をアセスメントし、栄養面から支援する。そんな体制がもっと広がっていってほしいものです。
<文:宮下公美子>