介護の仕事は、利用者の生活に寄り添う仕事。人として成長することもでき、他の仕事に代えがたい魅力があります。しかし一方で、肉体的・精神的なストレスは少なくありません。介護特有の仕事のストレス、人間関係のストレス、給与や体力への不安…
介護福祉士・心理カウンセラーの篠雅行さんがアナタのお悩みにアドバイスします。
今週のお悩み事例
さおりさん(特養 1年目 介護職 21歳)
この間、夜勤中に急変がありました。一緒に組んでいたベテランの先輩がテキパキと救急車を呼び、私は指示に従っただけだったのですが、とても疲れました。これまでの人生で、人の死に触れる経験はありませんでした。「また遭遇したらどうしよう…」と恐怖心でいっぱいです。
先輩に話すと「大変だけど、仕事だからね…」と言われましたが、夜勤が憂鬱でたまりません。
篠さんからのアドバイス
さおりさん、日々のお仕事本当にお疲れ様です。
介護の仕事に、急変はつきものですね。みなさんにもご経験があると思います。私が特養で働いていたときにも、何度か急変がありました。
とても気にかけていただいた利用者Aさんと救急車に乗ったときのことを書かせてください。
普段のAさんは寝たきりだったのですが、意思がはっきりしていて、私によく声をかけてくださっていました。
ある日、私が夜勤に入ると、Aさんは調子が悪く、食事もあまり取らない日が続いていました。目をつぶったまま肩で息をしている様子で、体温は37.5度くらいありました。朝までその様子は続いたまま、7時15分頃、早番の先輩が来て、Aさんをベッドから車椅子に介助で移動し、食事に行こうとしたときも、目をつぶり肩で呼吸していました。
篠 「昨日からこんな感じなんすよ。」
先輩 「そうなんだー。よくわからないねー。一応看護師さんに連絡しておこうか」
篠 「そうっすね。」
と私が電話で看護婦さんに連絡を取ろうとしたときです。
先輩 「まって!篠君。…呼吸が落ちていく。」
篠 「えっ!?」
先輩 「これ救急車だね」
すぐに先輩が心臓マッサージを開始。私は急いで救急車の手配をしました。私が付き添い、救急隊員と一緒に救急車に運びましたが、そのときすでに息は途絶えているように見えました。救急車で提携先の病院へ運ばれ、医師によって最期が確認されました。
私は病院の看護婦さんと一緒に、仏様用の衣装や施しを手伝いました。家族の方が駆けつけてきて、よく面会に来られていた私と同じ年くらいのお孫さんは、ご遺体に抱きつき泣かれていました。私は最期の状況を説明し、ただただ見守るばかり…。お孫さんに「本当にありがとうございました」と声をかけていただきました。
9時30分頃、ホームに戻り、夜勤の疲れと急変の疲れで、身も心もくたくただったことを憶えています。所長に状況を説明。一言「お疲れさま」と言われ、帰されました。「大変だったね」「よくやってくれたね」などのねぎらいや気遣いの言葉は、残念ながらありませんでした。他の介護士や看護師からは「ご苦労様」とねぎらいの声をいただき、少し救われました。しかし、仕事が終わってからも興奮は収まらず、自問自答の繰り返し。
「自分の対応は、間違っていなかったのだろうか?」
「先輩が気づかなかったら、どうなっていたのだろう?」
その日以降、何度も頭の中にそのシーンがフラッシュバックしていました。7,8年たった今でも、鮮明に憶えています。
このケースは早番の先輩がいたので良かったですが、私にとっては介護士のストレス対策を考えるきっかけにもなった出来事でした。介護士は人の最期に立ち会う仕事です。ストレスを感じて当然ですし、介護士自身にもケアが必要です。一方で、上司や周囲がそのストレスをケアしてくれるとは限りません。介護士はどうしたら良いのでしょうか?
そこで今回は、私から3つのアドバイスをします。
1 『自分なりのストレス解消法を持つ』
毎回毎回、恐怖心と向きあうことは、とてもストレスが溜まります。何かひとつ「自分なりのストレス解消法」を身につけてください。例えば、カラオケに行く、運動する、買い物に行く、友達と話すなど、何でもよいです。恐怖心と向き合うストレスをやわらげてあげてください。
2 『「少しの恐怖心」があるから、良い介護が出来る』
介護にとって一番怖いのは「慣れ」です。現場では緊張感を持って取り組むことが必要とされます。「少しの恐怖心」は緊張感を持っているからこそ感じるもの。「恐怖心」をマイナスととらえず、良い介護を行うために必要なことだと考えてみると少し楽になるかもしれません。私の場合、緊張感があるからこそ、体調を万全にして現場に入ろうとしたり、健康への意識を高めようと思えました。
3 『何度も思い返すことで、「介護力」が磨かれて行く』
私は急変を経験した後、何度も「あの対応でよかったのだろうか?間違っていなかっただろうか?」と自問自答していました。「経験」と「自問自答」によって、「介護力」は磨かれていくと思います。精神的にきついことですが、「自問自答」することで「次は絶対良い介護をしよう」と思え、その心構えによって、さらに対応力が磨かれ、責任感が増し、人間としての幅が広がっていきます。さおりさんの先輩もこの「経験」や「自問自答」を乗り越えてきたからこそ、「仕事だからね」という言葉が出てきたのだと思います。
介護士は、利用者やクライアントから日々学ばせてもらっている立場と言っても過言ではありません。初めから良い介護が出来る人はいません。失敗も含めさまざまな経験を通して、学ぶことが多い仕事だと思います。「利用者から学ばせて頂いている」ということを肝に命じて、現場に入る必要があるかもしれません。
なお、「もう本当に限界で心が崩れそう」という方は、無理をせず、お早めに医療機関やカウンセリングに相談してくださいね。
プロフィール
篠雅行(しの・まさゆき)
老人ホームや在宅介護事業所、障害者授産施設で介護職を務めるなかで、介護業界で働く人を精神的にサポートしたいと思い、カウンセラーの勉強を始める。介護福祉士、認定心理士、一般社団法人心理技能振興会 心理カウンセラーの資格を持つ。
公開日:2014/9/18
最終更新日:2019/7/3