毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「東日本大震災 ある介護事業所リーダーの反省」という話題を紹介します。
大地震発生!利用者を第一に考えて行動したつもりが…
あの忌まわしい災害から7年。東日本大震災の記憶は徐々に薄れつつあるが、介護現場でもあの震災から学ぶことは多かったようだ。
都内の訪問介護事業所で働くバンドウさんが、“あの日”のことを振り返る。
「私は当時、ホームヘルパーを統括する立場にありました。その日は、私自身も訪問介護の真っ最中でしたが、地震発生直後、携帯電話でほうぼうに指示を出し、冷静に対応しているつもりでした。
『○○さんの家は古いから、大丈夫かどうか確認して!』『××さんと連絡が取れないから、家に行って!』『△△さんは薬を飲まなきゃ行けないから、それだけは必ずやって!』といった具合に、ホームヘルパーに片っ端から電話をしていました。
『こんな時でも利用者を優先する』ということにとらわれていたんです。ですが、いま思い返すと、あの時の私の行動は間違いばかりだったんです」
その時は大きな問題にならなかったが、何週間か経つと、地震発生直後のバンドウさんの行動に批判が寄せられたのだ。
「最初に寄せられたクレームは、私が地震発生時に訪問していたお宅からのものでした。
地震発生直後、私はいろいろな所に指示を出していましたが、その電話はすべて、そのお宅でかけていたのです。おそらく2時間ぐらいはかけていました。
介助をしながら他のホームヘルパーに指示を出していたとはいえ、利用者のお宅を事務所代わりにしてしまったようなものです。
利用者のおばあさんは『あんな時だからしょうがないけど、電話の内容を聞いていると、怖くなってしまって……』と、仰っていました」
良かれと思った行動に、ヘルパーからもクレームが
一方で、バンドウさんの指示を受けたホームヘルパーたちからも、非難の声があがったという。
そのときの様子をバンドウさんはこう語る。
「ホームヘルパーたちに、『私たちにも家庭があり、家族がいる』と言われてしまったのです。もっともな話ですよね。誰しも利用者のことを心配していましたが、あんな災害が起こった時、より気にかかるのは自分の子どもや家族です。
あの時、私からの電話を受けたホームヘルパーたちは、みな私の指示に従ってくれましたが、簡単に頼むべきではありませんでした」
中には、面と向かってバンドウさんを批判する人もいたが、バンドウさんは一人ひとりに頭を下げるとともに、組織としても改善策を考えたそうだ。
「恥ずかしながら、ウチの事業所では、大地震発生時のマニュアルがきちんと徹底されていなかったのです。ホームヘルパーたちに対しても災害発生時の特別な教育は行っておらず、後に分かったことですが、一部のホームヘルパーは一時避難場所も把握していませんでした。
そこで年に1回、3月11日の前後に時間を設け、震災発生時の対応を学ぶ研修会を行うことにしたのです」
この研修は座学だけでなく、ダンボールをテーブル代わりにして非常食を食べたり、携帯トイレを使ってみたりと、かなり実践的な訓練も行うのだそう。
東日本大震災は、万が一の災害時にとっさに行動するための知識をスタッフ全員で共有できるきっかけになったそうだが、スタッフの間では毎年「この知識を使う日が来ないといいね」と、言い合っているそうだ。