毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「ヘルパーが見た、利用者宅の不思議な壁」という話題について紹介します。
利用者宅の「壁一面に貼られた紙」にはどんな意味が?
訪問ヘルパーとしていろいろなお宅におじゃましていると、ときには見たくないような光景も見てしまうのがつらいところ。
訪問ヘルパーの経験が10年以上あるナオコさんには、忘れられない嫌な記憶があるという。
ナオコさんは30代になってから訪問ヘルパーとして働き始めた。嫌な経験をしたのは、かつて担当していたYさんのお宅でのことだった。
Yさんは80代の男性で認知症が進んでおり、娘さんと2人暮らし。初めてYさん宅を訪れたとき、ナオコさんはギョッとしたという。
「『こんにちは、はじめまして~』と言ってYさんのお部屋におじゃましたら、いろいろな言葉が書かれた紙を、壁一面に貼ってあったんです。
ジロジロ見ちゃいけないと思い、黙々とスケジュールをこなしていたのですが、横目でチラチラ見てみると、どうやら書いてあるのは亡くなった奥さん・子供・孫の名前、どこかの住所、電話番号、生年月日などなんです」
気にはなったものの、あえて貼り紙について尋ねなかったというナオコさん。
しかしある日、Yさんのケアをしているときに娘さんが帰宅し、「はじめまして」「こちらこそいつもお世話になっております」という会話が交わされた後、Yさんは貼り紙の意図を知ることになる。
ヘルパーが愕然とした父娘のやりとり
ナオコさんはこう続ける。
「私との一通りの会話が終わると、娘さんは突然Yさんに向かって『質問っ! アナタの誕生日は?』『住所は?』と、簡単な質問を立て続けにぶつけたんです。
そしてYさんが答えに戸惑うと、娘さんは『○○でしょっ!!』と怒鳴りつけ、私に向かって、『毎日こういう風にしないと、ボケちゃって自分の名前も言えなくなっちゃうでしょ?』と、いかにも得意気に言ったんです」
たしかにそのような問答を繰り返すことで脳が活性化される可能性はあるが、質問に答えられないからといって怒鳴りつけるようなやり方では、あまり良い効果は望めそうもない。
実際、ナオコさんの目にも、Yさんが娘に対して萎縮しているのは明らかだった。
ナオコさんは言う。
「娘さんは教師をなさっているようで、私が『Yさんが怖がってるじゃないですか』と言っても、『人に教えるのが私の仕事ですから』と、まったく聞く耳持たずでした。
もうこの家を担当するのはつらすぎるのでと、無理を言って担当を変えてもらいました」
問題のある家庭に進言し、「他人はクビを突っ込むな」と、怒られた経験を持つヘルパーは少なくないのだそう。
明らかに問題がある家族に注意すべきか、見て見ぬふりをすべきか、ナオコさんは「いまだにどちらが正解なのかわかりません」と語っている。