介護の仕事に従事していると、目の前の仕事に追われて、「社会」が見えなくなることがあります。そんな中、野間さんは社会を見渡し、地域を見据えて、自分が属している施設にとどまらない活動を広げています。仕事に悩む人たちも、野間さんの視野の広さと情熱あふれる行動に、きっと刺激を受けるはずです。介護の世界で情熱をもって生きている人たちをご紹介する『情熱かいごびと』。まさにここにご登場いただくにふさわしい野間さんのインタビューを、4回に分けてお伝えします。まずは、野間さんの「今」につながるルーツから、始めます!
○●○ プロフィール ○●○
野間康彰(のま・やすあき)さん/高齢者地域密着型サービス施設ゆらり大和施設長
1972年生まれ。高校卒業後、働きながら予備校に通うが進学を断念、以後5年間はフリーター的な生活を送る。23歳のときに訪問介護の仕事を始め、介護の世界に。その後、介護福祉士などの資格を取得し、いくつかの施設立ち上げや運営に関わり、神奈川県大和市の現施設「ゆらり大和」(認知症のグループホームと小規模多機能型居宅介護事業所)の管理者から施設長に。認知症当事者と走るリレーマラソン「RUN伴」の町田市から御殿場にかけての100kmを昨年、今年と2年間、主体となって担当し、支えた。
高齢者地域密着型サービス施設ゆらり大和ホームページ
23歳までは挫折続きだった
小規模多機能型居宅介護事業者なので、宿泊できる個室がある。この日も宿泊している利用者さんが。
――野間さんは、学生時代から介護の仕事を目指していたんですか?
いえ、ぜんぜん違うんです。高校を卒業して、新聞奨学生をしながら、大学進学を目指して予備校に行っていたのですが、仕事がきつくて予備校で眠ってばかりで。結局進学を断念し、仕事も転々として……。23歳ぐらいまでは挫折続きでした。
そもそも、仕事で人とお話して仲良くさせていただいたとしても、たとえば最後に車を売るとかという目的があって、お金を払ってもらわないといけない、と思うと、正面から向き合えないんです。それがいやでたまらなくて。この頃の自分は人がきらいでハスに構えていたところがありましたね。
でも、反面、「この国の豊かさってなんだろう、お年寄りにもやさしくない」と、考えている部分もありました。そんなふうに悶々とする中、福祉なら、接する方にお金をいただこうとするのではなくて、その方のために自分が働けるのではないかと思ったんです。当時住んでいた東京都町田市の市報を見たら、介護関係の事業所がずらっと並んでいたので、片っ端から電話しました。「何か仕事ないでしょうか」と。それで、訪問介護の事業所に登録できることになりました。
――訪問介護からスタートしたんですね。
はい、なりたての頃は無資格・無経験でした。当時は介護保険制度が始まる2000年よりも前だったので、今のように制度がきちんとあったわけでもなく、その分、自由度も高かったと思います。今の訪問介護は20分など、短時間の場合も多いですが、当時、私のいた看護婦家政婦紹介所では1件3時間と決まっていて、私の場合は、毎日3件ずつ週に6日、年末年始も問わず訪問していました。
最初に伺ったのは、認知症で言語障害がある男性で、会話することもできず、「どう3時間を過ごしたらいいんだろう」って、持て余しました。けれど、だんだん信頼関係が築けてくると、3時間一緒にいても手持ち無沙汰でもなくなってきて。ご家族とも親しくなり、ご本人も僕を待っていてくださるようになって。うどん屋さんを経営しているお宅だったので、行くと「食べて行ってくださいよ」と誘ってくれて、ご家族といっしょにうどんを食べたり。
今は制度上、そんなことは禁止ですよね、今ヘルパーをやっている人はかわいそうですね。窓を拭いてもいいけれど網戸はダメとか、草むしりはダメとか。介護保険が始まって助けられた人はたくさんいるけれど、制度の枠の中で働くようになり、一歩踏み込めない。
日々変わるニーズを汲んで自在に関わる
オフィスでデスクワークしている時間は長い。ここにすわっているときにもさまざまなアイデアが生まれる。
――そうですね。介護保険制度の中では、訪問介護の枠組みがあり、サービス計画を1カ月分作って、それにより費用が決まって……、という流れですよね。
でも、人の予定というものは、日々、いや時間ごとにも変わるものですよね。自分のことを考えても、「買い物に行こうと思ったけれどやめた」とか、「中華料理を食べようと思ったけれどイタリアンにしよう」とか予定が変わります。高齢者の方なら、ご自身でなかなかどう行動したいのか選択肢がないことが多いのだから、余計にこちらが気持ちを察して、利用者様の希望を叶えるように行動すべきだと思うのです。
「今日はゆらりに行きたくない」と言うのなら、そのお気持ちを尊重する、けれど日中独居で心配だから、弁当を持って訪問に行く、というような。うちは小規模多機能を展開しているので、そんなふうに対応しています。そうでなくても、自在に関わる気持ちがないと、そしてそれを私たちが楽しめないと、在宅は支えられないと思っています。
介護というと、食事を出して排泄と入浴の介助をして、と思っている人は多いと思いますが、ほとんどの大切なことは、そこからはみ出していると思っています。
――けれど、「仕事」と考えると、決まった時間で働きたいと思う人は多いですよね。また、野間さんのような情熱のある人が上司としてそばにいて、学べるかどうかでも、仕事に対するスタンスは変わってしまうのかもしれません。
いや、私みたいな人ばかりじゃ困るでしょう(笑)。全員、同じ考えというわけにはいきません。でも、認知症の人に対する知識の細かいことはどうでもいいから、利用者さんも自分たちも「同じ人間じゃん」っていうのを身近に感じてほしいです。
次回は、介護の世界に飛び込んだ野間さんが「地域」に目を向けるお話です。