2018年9月1日、防災の日。
介護現場での防災対策をテーマにしたリアル防災ワークショップ「介護×防災セミナー」が開催されました。
介護現場で活かせる防災の実践力を学ぶために実施された「介護×防災セミナー」。
1.災害時に介護現場が直面しうる課題を知ること
2.命を守るための知見を得ること
3.防災についての疑問が解消されること
4.1人1人が未来の災害に備えること
そして、一歩を踏み出すこと
以上を目的に、さまざまな視点から『防災』を考えることになった本セミナーの内容を、ご紹介いたします。
第1部「震災時のマネジメント」
はじめに行われたのが、全員参加型のケーススタディ「地震のマネジメント」です。
慶應義塾大学SFC研究所の伴英美子(ばん・えみこ)さんの進行で、
「もし介護現場で災害が起こったらあなたはどうする?」をテーマにしたケーススタディが行われました。
ケーススタディの舞台は、大地震に見舞われた、とある介護施設。
「被災直後」「情報が揃わない被災地」「他施設からの受け入れ要請」「被災数日後の介護スタッフの帰宅」など、場面ごとの課題解決のための意見を参加者全員で出し合いました。
議論中に伴さんから提示された視点は、
「どの意見が正しくてどの意見が間違っているかを決めるのではなく、互いの意見を影響させ合う」ということ。
たとえば、被災後に他施設から受け入れ要請があった場合、どのような対応をするか?という問題。
「受け入れる」「受け入れない」のどちらが正しいかを結論付けるのではなく、どうやって判断したかを書き出して、判断するための要素や考え方を共有していきました。
組織で大切なことは、対話によって対応力を高め、共有すること。
「もし地震が起こったらどうするか?」「利用者さんの避難のさせ方は?」「スタッフは家に帰すか帰さないか?」など、皆さんの職場でもぜひ考えてみてください。
大切なのは、答えを決定することよりも、
判断するために考える訓練を普段からしておくことなのです。
第2部「災害時の外部支援(災害派遣)について」
続いて第2部では、災害福祉広域支援ネットワーク・サンダーバードの内出幸美(うちで・ゆきみ)さんを講師に迎え、災害時の介護現場の実情についてお話を伺いました。
実際に岩手県の介護施設で東日本大震災に被災した内出さん。
「緊急医療」はあっても「緊急介護」はない、という状況に直面したそうです。
医療機関に全国から医師や看護師が支援に集まる様子を見て、「福祉領域でも外部からの支援が必要!」と災害介護派遣チーム「DCAT(Disaster Care Assistance Team)」の必要性を感じた内出さん。
災害が起こった時に現地に駆けつける支援はもちろんのこと、災害に備えた研修や訓練を行うことで、お互いに支え合う体制の整備を目指して活動されているそうです。
災害時の介護現場の支援にはまだまだ課題が残っていると語る内出さんですが、一方で、震災を通して、未来に通じる可能性も感じられたといいます。
介護施設で地域住民の方々と寝食を共にし、介護の様子を間近で体験してもらうことで、「お互いさま」という強い共同体意識が芽生えたそうです。
「大切なのは、地域で暮らす一員として、
“何かをするのではなく、共に在ること” です」という言葉で締めくくられた内出さんの貴重な体験談は、「今、自分ができること」を学ぶ講義でもありました。
“いざ”というときのために、普段からお互いの様子を知り、声を掛け合い、いつでも協力し合えるという意識を作っていくことが、支援の第一歩なのではないでしょうか。
第3部「より良い判断のための地震学」
もし、地震が起こった時にとっさに判断するためには、事前に知識を持っていることも大切。
第3部では、慶應義塾大学環境情報学部の大木聖子(おおき・さとこ)さんより、地震学の観点からの講義がありました。
地震について正しく理解し、備えるために、覚えておきたいことは何か?という視点で、5つのポイントを紹介してくれました。
1.マグニチュード7クラスの地震は、日本のどこでも起こりうる。
2.内陸でマグニチュード7、海域でマグニチュード8以上の地震で、かなりの被害の可能性。
3.マグニチュードが大きいほど、強く、長く、揺れる。
立っていられないほどの強い揺れが続いた時間が、「10~15秒なら、直下型の地震を想定」「1分以上続くなら、沿岸部では津波を想定」「3分以上続くなら、沿岸部では巨大津波を想定」。
4.「本震のマグニチュードからマイナス1」より大きい余震があったら、警戒を継続する。
5.15階建て以上の高層ビルは、遠くの大地震で揺れ続ける(共振)。
地震をやみくもに怖がるのではなく、正しい知識を得て、自分の日常を踏まえて想定することの大切さを学んだ講義でした。
「大都市で震災が起こった時には、急いで歩いて帰らないという勇気を持つ」
「後から来る情報を待つのではなく、その瞬間にベターと思える判断をすること」
「今すぐにベストな判断をしなくてもいい。さっきの判断が間違っていたら、もう一回考え直せばいい」
という、大木さんの力強いアドバイスも、とっさの時の心強い判断基準になるはずです。
第4部「そしてこれから…」
最後に、防災介護士の清水達人(しみず・たつひと)さんが登壇し、
「明日からの介護現場での防災対策を考える」実践企画が行われました。
自身の災害ボランティアとしての活動や介護職としての経験から、災害時に起こりうるリスクに自信を持って対峙したいと努力する「防災×介護の達人」清水さん。
何かが起こった時に「自分には何もできない」と思わないように、考え続けることが重要だと語っていました。
清水さんのお話の後は、参加者が3~4人のグループに分かれ、災害が起こった時に、介護施設や職場、地域で発生する問題点と、その解決方法を書き出すワークショップがスタート!
「近隣地域に暮らす外国人はどうやって避難したらいい?」「まずは誰がどこに住んでいるかを知る必要があるよね」
「災害が起こったらエレベーターが使えなくて困るな」「利用者を担ぐとなると体力がもたないかも」「普段から筋トレしよう!」
などなど、率直な意見が交わされる場面も。
最も正しい意見を決めるのではなく、課題を解決する方法を全員が考え、よりよい方法を考えていく。今ある情報の中で、全員が考え、判断していく、という「思考訓練」の濃密な時間が流れていました。
いざという時に、自信を持って行動するために。
第1部「震災時のマネジメント」で学んだまとめ
そして、今日の学びを明日につなげるために、自分には何ができるか―
「自分はこれをやろう!」と、決めたことを最後に1人1人が紙に書き、第一歩を踏み出すための決意をする企画で幕を閉じました。
すべてを想定して正解を出すことよりも、
「常に全員が考えること」「考えるための訓練を続けること」が、いざという時の行動につながるのだと、参加者全員が共感したセミナーでした。
いつどこで起こるかわからない災害。
いざという時のために何を学ばないといけないか?身近なところで自分に何ができるか?
ぜひ皆さんも、考えてみてはいかがでしょうか。
【イベント概要】
「介護×防災セミナー」想定外にどう備える?!命を守る介護現場の防災対策
2018年9月1日(土)13:00~17:00
(共催:慶應ヘルスサービス研究会、KAIGO LEADERS、ケースメソッド・ラボ、日本ケースメソッド学会ケースメソッド作成研究部会)