イベントは力強い和太鼓演奏でスタート
介護職の仕事と一言でいっても、その内容は、施設やサービスによっても、事業者の方針によっても異なる。
「他の老人ホームでは、どんな介護をしているのだろう？」「利用者に好評のあの介護施設は、うちとは何が違うのだろう？」 と、気になる介護職も少なくないはず。またこれから介護業界への転職を検討している人にとっては、介護の現場はどんな雰囲気なのか、どんなスタッフが働いているのかは、事前にチェックしておきたいことだろう。
2015年11月22日、東京・日比谷公会堂は、全国の介護職たちの熱気に包まれた。そこで行われたのは、「介護甲子園」というイベントだ。
全国2771の介護事業所が参加する「介護甲子園」とは？
「介護甲子園」とは、介護職が日々行っている介護サービスを競い、評価し合うイベント。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、デイサービス、グループホーム、障害者支援施設…介護・福祉関係のさまざまな事業者が参加し、職場の想いや取組を発表する。参加事業所は年々増え、今回は2771事業所がエントリー。そのなかから、書類審査をクリアした30事業所が二次予選へ進出。
二次予選では、各事業所が撮影・編集した動画をインターネットで公開し、一般視聴者による投票によって、全国5ブロックの代表が選出された。最優秀賞を決めることも目的だが、介護甲子園を通じて、介護職同士が思いや夢を共感し、ともに成長する場にもなっている。
その決勝進出5事業者が当日、日比谷公会堂の約1200人の観客を前に、日ごろの介護への想いや取組を伝えるプレゼンテーションを行った。
ここでは、日々やりがいを感じながら、イキイキと働き、介護甲子園決勝進出を果たした5つの事業所の取組を紹介したい。
決勝でプレゼンした介護事業所の取組とは？
今回決勝に進出したのは、それぞれ特徴ある5つの事業所だ。
●「遊び」を大事にする ～児童デイサービスたからばこ（千葉県・習志野市）
「児童デイサービスたからばこ」は、放課後等デイサービス。障害のある小学校1年生から高校3年生の利用者にとって、ここは自宅・学校に並ぶ、第3の居場所。学校を終えた子どもたちが、たからばこに“帰ってくる”。
たからばこでは、障害のある子どもや発達に課題がある子どもが、社会に出ても困らないようにすることを目標にさまざまな取組を行っている。
そのひとつに、「遊び」を通して、身体や道具を使う楽しさを実感してもらうことがある。友達や先生と一緒に「遊ぶ」なかで、社会のルールを学ぶきっかけをつくっている。他にも地域の人たちに、障害の特性などを知ってもらい、理解を深めてもらうため、スタッフが講師としてセミナーを開催するなどもしている。
介護の仕事への思いを熱くアピールするデイサービスどき2号館の職員。スクリーンに大きく映し出された顔はやる気にあふれていた
●利用者の満足度を追求 ～デイサービスどき2号館 （香川県・丸亀市）
デイサービスどき2号館は、通所介護（デイサービス）。カラオケに、トレーニングマシン、足湯などさまざまな設備が充実している施設だ。この事業所が特に力を入れているのはレクリエーション。「どうすれば利用者に満足してもらえるか」をスタッフ全員が考えている。レクは365日年中無休。スタッフによる歌舞伎、カラオケ大会、脳トレ、畑いじりなどなど、さまざまなメニューがある。
またスタッフ同士で、レクの内容を競い合ったり、アイディアを共有したりしているそう。そうして得た利用者の満足度は、介護職の自信につながり、利用者との関わり方にも好影響を生んでいるとのこと。
●夢を現実にする介護 ～グループホーム ルンビニー （愛媛県・松山市）
グループホーム ルンビニーのスタッフには、「入居者の夢を叶えたい」という思いがある。
介護の仕事は大変だからこそ、楽しい現場にすることをモットーにしている。「旅行に行きたい」「好きな歌手のコンサートに行きたい」などの、入居者の希望を叶えるために、何度も話し合い、現実に近づけていく。その夢は利用者にとっての楽しみになり、介護職にとってのやりがいになる。
ルンビニーでは、看取りの後、家族とともにスタッフが、亡くなった入居者の身体をお風呂で丁寧に洗う（ビハーラケア）。それは、家族の気持ちを癒すだけでなく、スタッフにとっても心の整理をする時間になっているそうだ。
●専門学校のスタイルで就労支援 ～弘前ビジネスアカデミー （青森県・弘前市）
弘前ビジネスアカデミーは、就労継続支援A型・B型のサービス分類に属する施設。障害のある人が社会で働き活躍するための「職業訓練校」をコンセプトにしている。専門学校をモデルにしており、「スタッフは講師」「利用者は生徒」というスタイルが特徴。利用者は、キャンパスライフを楽しみながら、仕事や学習、利用者同士のコミュニケーションに励むことができる。
利用者自身が、学習コースを選択できるのも特徴の一つ。情報ビジネス、クリーニング、便利屋、商業ビジネス、介護補助の5つのコースから、自分に合ったコースを学べる。障害のある人、精神疾患を抱えた人の人格を尊重したオーダーメイドの就労支援を実現している。
就労先でのトラブル発生を防ぐために、事業所内でルールや予防策を講じ、実際にその件数を減少させているそうだ。
日比谷公会堂の大舞台。息の合ったプレゼンで観客の心をつかむサンベストビレッジ浮間公園のスタッフ
●入居者に“惚れられる”ために ～サンベストビレッジ浮間公園 （東京都・板橋区）
サンベストビレッジ浮間公園は、認知症対応型共同生活介護（グループホーム）。決勝のプレゼンテーションでも伝わってきたが、この施設の最大の魅力は、スタッフの明るさかもしれない。
ここでは、入居者に「ここに居たい」と言ってもらえる介護を実践している。そのために入居者に“惚れられる”ことを目指している。
入居者が料理の味付けに失敗した時には、「もう一度一緒に作ろう」とスタッフが声をかける。スタッフはあくまで入居者のできない部分だけをフォローする。それが自立支援の介護につながっている。
また、「スタッフの残業ゼロ」を実現するなど、介護職一人一人の時間を大切にしていることも特徴と言える。管理者があえて参加しない飲み会を設定し、仕事のガス抜きをしてもらうなど、職員のケアも欠かさない。
そんな取組が、スタッフの明るさにもつながっているのではないだろうか。
参加事業所の頂点。最優秀賞に選ばれたのは…
5つの事業所のプレゼンテーションが終了。観客が、「最も学びが得られた」「最も気づきが多かった」と思う事業者に投票。最優秀賞は、「グループホーム ルンビニー」 が選ばれた。
最優秀賞に選ばれた「グループホーム ルンビニー」のスタッフの皆さん（ホーム長・岡本将宗さんは上段一番右）
ルンビニーは、介護甲子園へのエントリーが4回目。今回が初めての決勝進出だった。最優秀賞決定後、ホーム長・岡本将宗さんに、受賞のポイントやプレゼンテーションについてインタビューした。
「看取り後の入浴（ビハーラケア）を、暗い印象を与えずに伝えるにはどうすればよいか、苦心しました。ご家族や介護スタッフが“看取り後の入浴”を通して感じていることを、わかりやすく舞台で再現するために試行錯誤を重ねましたね。理事長の意見なども参考にして、業務後の時間を利用して、本番直前までリハーサルを続けました（笑）」
岡本さんの優しさにあふれた笑顔が印象に残った。
普段の職場から離れて、他の事業所の取り組みや考え方を知る機会は、意外に少ない。しかし、実際に知ってみると、
「こんな職場もあるんだ、こんな事業所で働きたい」「介護職はこんなこともできるんだ」と新たな気づきが得られる。
介護甲子園の理念は、「共に学び、共に成長し、共に克つ」。
全国の優れた取り組みを、事業所の枠を超えて共有し、仕事の誇りや尊さを再確認する。そして、さらにお互いに発展する。介護甲子園はそんな場となっている。
イキイキと働き、介護の現場を今以上に明るくしていくことが大事。そのヒントを、介護甲子園を通して、数多く感じることができた。
「第六回 介護甲子園」の開催も、すでに決定しているとのこと。（2016年12月18日（日）大阪府立国際会議場（グランキューブ大阪）） 次回は、どんな介護事業所が参加し、どんな介護を披露するのか、これからの「介護甲子園」にも注目したい。
介護甲子園 公式サイト
介護求人ナビの求人数は業界最大級！ エリア・職種・事業所の種類など、さまざまな条件で検索できます
