介護事故の把握に向けて、全国調査実施へ
減らす努力をしていても、なかなかゼロにするのが難しい介護事故。
このほど、厚生労働省が全国で調査を行い、入居施設での介護事故の実態把握に取り組むことが決まりました(*1)。
介護保険のサービス提供の過程で事故が発生した際は、事業者から市区町村に届け出ることが義務づけられています。
そして市区町村は、指定基準違反の恐れがある場合や、その後トラブルになりそうな重大な過失による事故などの場合は、都道府県に報告することとされています。
このように、介護事故が起きてしまったときの報告は事業者に義務づけられているものの、実際には、報告書提出の有無には事業者によって大きなばらつきがあります。
そのため、事故の実数を把握するのは困難なのが実状です。
一方で、介護事故の内容については、これまで全国の特別養護老人ホームを対象に、アンケート調査が行われたことがあります(*2)。
その調査結果によれば、報告された事故で多いのはやはり転倒と転落。次いで、皮膚剥離・内出血、誤薬、誤嚥と続きます。
この調査では、事故防止の取り組みなどについてもヒアリング調査を行っています。
どの施設でも、組織基盤づくり、業務手順書の整備、研修の実施などの対策を取っているようですが、決定的な事故防止策があるわけではありませんでした。
■報告された介護事故(複数回答)
出典:介護施設における介護サービスに関連する事故防止体制の整備に関する調査研究事業報告書
実際に介護事故の聞き取り調査をしてわかったこと
筆者は、以前、介護保険サービスの苦情相談業務に携わっていたことがあります。その際、利用者や家族からはしばしば介護事故に関係する苦情がありました。
大きな苦情の原因になりやすかったのは、やはり転倒による骨折。
そうした苦情の際は、事故が起きたときの状況や、施設のその後の対応について、施設を訪問して聞き取り調査を行いました。
聞き取り調査で訪問した際、強く感じたのは、質問にきちんと答えてくれる施設は、日頃からしっかりとしたアセスメントを行い、適切なケアを提供している施設が多いということです。
聞き取りにきちんと答えてくれる施設は、事故原因の調査、分析、反省、改善策の検討、その実践についても明確でした。
日頃のケアに自信があるからこそ、それでも不足があって事故が起きてしまったことを深く反省し、よりよいケアを提供するための努力を惜しまないということでしょう。
反対に、聞き取り調査を行っても曖昧な答えが多く、事故原因の調査、分析、改善策について不十分さを感じた施設もあります。
正直なところ、そうした施設は、日頃のケア体制にも不備が多いのではないかと感じました。
究極の介護事故防止方法は、ベッドに寝かせきり、車いすに座らせきりにすることだというブラックジョークがあります。
介護の現場に限らず、人が生活していれば、転倒などの事故を100%防ぐことはできません。
しかし、日々、最善の介護を積み重ねていれば、万が一事故が起こったとしても、利用者の家族にも行政にも「やむを得なく起きた事故なのだ」と理解してもらえるものと思います。
事故のような非常事態の時にこそ、日頃の取り組み姿勢があらわになる。
私がさまざまな施設を訪問し調査を行った時には、そんなことを感じていました。
厚生労働省の調査では、単に件数などの数字を見るだけでなく、もっと踏み込んだ調査をしてほしいですね。
どんなケアを提供している施設でどんな事故が起きているのか。
単純に事故防止の取り組みを調査するのではなく、アセスメントから課題分析、それに基づくケアの内容など、日頃のケアへの取り組み姿勢と事故との関連を見る実態把握をしてもらえればと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 施設や有料ホームでの事故の実態、全国調査で把握へ(ケアマネジメントオンライン 2018年1月9日)
*2 介護施設における介護サービスに関連する事故防止体制の整備に関する調査研究事業報告書(株式会社三菱総合研究所)