介護職不足は長年言われていますが、2015年1月、高齢化のピークを迎える2025年には約30万人不足することが明らかになりました。
以前から、2025年に必要な介護職の数は約250万人といわれていました。2013年時点での177万人から73万人増やさなくてはなりません。そのため、介護職の人数を増やすよう、さまざまな取組が行われています。
しかし、今回あらためて、“将来のサービス見込み量”と、“介護業界に供給される人数”を予測し計算したところ、「2025年時点で介護職は30万人不足する」という結果が判明したそうなのです。
このままのペースで養成していても、40万人程度しか上積みできない…。
国はこれから、今まで以上に、介護職の給与引き上げや介護未経験者を活用していくなどの対策を強化して、人材を確保していこうとしています。
1万円程度の給与アップでは焼け石に水?
給与に関して言えば、介護職(正職員)の月給は、全産業平均の29万5700円(*1)より約10万円も少ない19万8527円(*2)。介護業界は歴史が浅いため、他の業界と勤続年数や平均年齢に違いがあり、単純比較はできません。しかし、他業界の求人と比べてどうしても見劣りしてしまいます。
2015年度の介護報酬改定では、介護職の処遇改善の努力をしている施設・事業所に上乗せして支払われる「処遇改善加算」がこれまでどおり継続されることになりました。国はこの加算で、介護職1人あたり1万円程度の給与アップを目指していますが、それでもまだまだ十分ではありません。介護職を希望する人材は、期待ほど増えていないのです。
介護職になりたい人が少ない、ということがよくわかるデータに「有効求人倍率」があります。この言葉、ニュースで聞いたことがある方も多いですよね?
「有効求人倍率」とは、求人数を求職者数で割った数値です。
この数値が「1.0」であれば求職中の1人に対し、1つの求人募集がある、ということ。「2.0」であれば、1人の人に、2つの求人募集があるという状態です。
数値が小さければ、求職者の方が強気に出て多くの求人募集から好きなものを選べます。逆に数値が大きければ、求人募集する事業者側が、応募してきた多数の中から好きな人を選ぶことができます。
では、介護・福祉業界の求人倍率はどうでしょう?
特養や老健などの介護保険施設の有効求人倍率は2.06倍、介護保険施設以外の高齢者分野の有効求人倍率は5.23倍(*3)。なんと、同時期の全産業平均の有効求人倍率1.0倍(*4)の2倍以上です。
つまり、求職者は、たくさんの求人募集の中から自分に合うところを選べる状況。逆に、介護サービス事業所や施設側にとっては、求人募集しても、応募ゼロということが少なくないのです。
人材確保の見通しが立たないために、介護施設の開設を断念したり、開設してもフルオープンできなかったりする施設が増えています。介護ニーズはあっても、対応できない状況が生まれているのです。また、運営中の施設では、急な退職や休職による人手不足への対応など、派遣スタッフによって人材を確保しているところが少なくありません。
介護人材不足で、派遣スタッフのレベルまで低下?
本来、派遣の介護職は、一定水準以上の技術を持っていることが前提です。しかし、あるデイサービスでは、本当に実務経験があるのか疑われるような介護職が派遣され、大混乱に陥ったといいます。
その派遣スタッフは、介護福祉士有資格者という触れ込みでした。たしかに、排泄や入浴、食事の介助など、基本的な介護技術は身につけていました。しかし、介護はチームプレイ。技術があっても、周囲の状況を見て、自分がなにをすれば全体がスムーズに進むかを考えて行動できなければ困ります。この派遣スタッフは、そこがまるで身についていませんでした。
言われたことしかやらない。状況を察して動くということがない。指示を守らない。わからないことがあっても聞かずに自分の判断でやってしまう…。一つ一つ指示をしなければ仕事が進まないので、他の介護職員は自分の仕事に専念できません。その指示も、具体的、詳細に伝えなければ、「そんなことは聞いていません」の一言。しかも、一度指示しても、次の時にはまた指示しなければ勝手な判断で動いてしまうというのです。
これでは、勤務シフトを組んでも戦力として扱えず、単純作業しか任せられません。結果、人材不足を補うために派遣を入れたのに、他の職員の負担が増すばかりという状態になってしまいました。ついには、歩行が不安定だから見守りが必要、と伝えておいた利用者に付き添っていながら転倒させてしまい、派遣会社に交替を求めることになりました。
人材不足の波が派遣スタッフのレベルにまで影響しているのか、と思わせる話ですね。
正社員、パート・アルバイト職員、派遣スタッフ…
どの働き方の場合でも、今後さらなる待遇改善が行われる可能性が大です。いまだかつてない危機感で、国をあげて取り組まれていますから、働くスタッフとしては、大いに期待していきたいところです。
*1 厚生労働省「平成25年賃金統計基本構造調査」より
*2 全国労働組合総連合「2014年度版介護施設で働く労働者のアンケート」より
*3 福祉人材センター・バンク 平成25年10~12月職業紹介実績報告より
*4 厚生労働省「一般職業紹介状況(平成25年12月分及び平成25年分)について」より
<文:宮下公美子>