作業療法士(OT)というと、理学療法士(PT)とともにリハビリテーション業務に関わるというイメージが強いのではないでしょうか。しかし実は、病院・クリニックの他にも、作業療法士が活躍できる場は数多くあります。
ここでは、病院以外で作業療法士が活躍できる業界について解説します。これまで培った作業療法士としてのスキルを活かして転職したいと考えている方は、参考にしてみてください。
1 作業療法士の資格や経験が生かせる業界・職場は?
2 患者の回復を支援する「医療業界」
3 高齢者の生活を支える「介護業界」
4 子どもの発達・療育を見守る「児童福祉業界」
5 障害がある人の生活を支える「障害福祉業界」
6 社会活動や社会復帰を支える「司法・行政など」
7 経験・知識を活かした「開業・フリーランス」
8 最後に
作業療法士の活躍の場は、病院・クリニックなどの医療業界のほか、介護老人保健施設や老人ホーム、デイサービスなどの介護業界(高齢者福祉)、児童発達支援センターなどの児童福祉業界、障害福祉事業所などの障害福祉業界、司法・行政など多岐にわたります。
具体的にどのような業界・職場で活躍できるのか、説明していきます。
医療業界を大きく分類すると、病院やクリニックといった「医療機関」、医薬品の開発・製造を行う「医薬品メーカー」、医療現場で使用する医療機器や用品を開発・製造する「医療機器メーカー」に分けられます。この中で、作業療法士が働くことが多い場所は、実際に患者さんに接する「医療機関」ですが、作業療法の専門スキルを活かし、医療機器メーカーでの新しい器械の開発に携わることもあります。
携わる患者さんは、生まれつき障がいのある人や病気やケガなどで障害を抱えた人、加齢に伴い身体や精神の機能が衰えた人など。介護業界では、要支援や要介護の認定を受けた人、障害福祉業界では身体や精神に障害がある人が対象となりますが、医療業界は乳児から高齢者、健常者から障害者まで、対応する患者さんの幅が広いことが特徴です。
医療業界で作業療法士が対象とする患者さんは、前項でも説明したとおり、年齢や障害の等級もさまざまです。病院・クリニックなどで作業療法士は、医師・看護師・他のリハビリテーション専門職(理学療法士・言語聴覚士)とともにチームを組み、患者さん一人ひとりの症状や目標に応じて「食事する」「入浴する」「着替える」「文字を書く」などの動作が行えるよう機能回復訓練を行います。
理学療法士は「座る」「立つ」などの基本的な機能の回復をサポートしますが、作業療法士はさらに、自宅で日常生活を送るための応用力や、社会復帰ができるような機能回復訓練を行うのが特徴。作業療法士が入ることで、退院後、自宅での日常生活や職場復帰がスムーズに移行できることを目指します。また、理学療法士とは異なり、作業療法士は精神疾患により日常生活が困難になった患者さんも対象となります。
医療業界で、主に作業療法士が活躍しているのは、病院とクリニック。ここではその2つの業態の特徴(施設の特徴、患者さんの特徴)について解説します。
◆病院
病院は、複数の診療科と20床以上の病床を持つ医療機関のこと。「一般病院」「特定機能病院」「地域医療支援病院」「精神病院」「結核病院」に分類されます。
「一般病院」は、地域や症状問わず幅広く患者を受け入れる病院ですが、「特定機能病院」では高度な医療を提供。「地域医療支援病院」は、地域医療を担うかかりつけ医としての役割を担っています。「精神病院」は精神病床のみを有する病院。「結核病院」は結核病床のみを有する病院です。
「特定機能病院」は、病気やケガで高度な医療が必要となった者、「精神病院」は精神病疾患者、「結核病院」は結核病患者が対象。「一般病院」の患者は、年齢や症状・地域が幅広いのが特徴です。「地域医療支援病院」は、かかりつけ医という側面があることから、患者の中心はその地域の住民が中心です。
作業療法士が勤務する主な診療科目は、整形外科、精神科、心療内科、小児科などです。
◆クリニック
クリニックは、主に外来患者の診察や治療をする医療施設のこと。無床もしくは、19床以下の病床を有するものとしています。クリニックのほか、診療所や医院といった名称も使われます。
地域のかかりつけ医としての役割も持ち合わせており、訪れる患者さんは地域住民が多く、病院と比べると比較的軽度であることも特徴です。作業療法士が勤務するクリニック・診療所・医院の診療科目は、整形外科、精神科、心療内科、小児科などになります。
作業療法士が病院・クリニックで行うリハビリテーションは、患者さんの症状や診療科目によってさまざまです。ここでは、作業療法士が行うリハビリテーションの一例を紹介します。
◆病院
病院で行うリハビリテーションは「急性期」「回復期」「生活期(維持期)」に分けられます。各段階でどのようなリハビリを行うのか解説します。
・急性期
急性期リハビリテーションは、脳卒中や骨折といった急な病気やケガを負った患者さんを対象に行うリハビリテーション。1日でも早くリハビリテーションを行い、元の生活に戻れるようにすることと、早期の退院を目指した機能回復訓練を実施します。
・回復期
急性期で治療を受けた患者さんの症状が安定し始めた頃から行うのが回復期リハビリテーションです。
早期の退院を目指す急性期とは異なり、自宅や社会復帰を見据え、少しでも元の近い状態に近づけるような機能回復訓練を行います。
・生活期
生活期は、急性期・回復期を経て、在宅生活を行っている時期のこと。病院での入院時に行ってきたリハビリテーションの効果を維持するとともに、在宅生活でのQOL(生活の質)の向上にも努めます。
◆診療科別
・整形外科
ケガ(骨折、外傷など)、脊髄損傷、変形性股関節などを負った患者さんが対象。症状に応じて、筋力の強化、関節の可動域の訓練、歩行訓練を行います。
・精神科
統合失調症やうつ病、認知症、依存症の患者さんが対象。無気力であったり生活のしづらさを抱え、社会生活が困難な患者さんに向け、手芸や工芸、料理などの創作活動や、レクリエーションを通したリハビリテーションを行います。
・小児科
生まれつき障害を持って生まれた子どもや、病気・ケガを負った子どもが対象。大人向けのリハビリテーションとは異なり、発達期の子どもに応じて、遊びやレクリエーションを取り入れた機能回復訓練を行います。
介護業界とは、主に要介護・要支援の認定を受けた高齢者など、日常生活での支援を必要としている人に適したサービスを提供する業界のこと。「介護老人保健施設」「特別養護老人ホーム」「デイサービス」などが代表的なサービス提供施設です。
医療業界は、生まれたばかりの子どもから高齢者までと幅広い年齢・症状の人が対象。同じ福祉業界の障がい福祉業界では、生まれつき障害がある人、あるいは病気やケガによって心身に障がいを負ってしまった人が対象となりますが、介護業界の利用者は、要介護・要支援の認定を受けた65歳以上の高齢者です。
そのほか、交通事故などで全身まひになった人や、重度の知的障害・精神障害を持つ人、重度の難病(パーキンソン病・リウマチなど)を罹患している人は「重度訪問介護」の対象者となり、65歳以上の高齢者でなくとも重度訪問介護のサービスが受けることができます。
介護業界における作業療法士の役割は、リハビリテーションの専門家として、介護が必要な高齢の利用者が日常生活をスムーズに送ることができるように、身体機能の維持・改善を支援すること。「利用者が自分で生活できるようにすること」を目的に、各種リハビリを行います。
利用者の中には、疾患・ケガ・加齢によって身体機能が衰えて、うまく体を動かすことができない人も少なくありません。体を思うように動かすことができないストレスから、外出のハードルが上がり閉じこもってしまうケースもあります。
そこで作業療法士が「衣類の着脱」「入浴」「食事」など、生活のために必要な作業の訓練を実施。利用者ができる応用的動作が増えることで、家の中での生活がしやすくなるだけでなく、外出・散歩・ボランティアといった社会活動への参加意欲も向上します。
また、ストレスなく動作が行えるように、杖など必要な補助具などを提案し、日常生活がしやすい環境づくりにも携わります。
作業療法士が介護業界で働く場合、どのような施設やサービスがあるのでしょうか。ここでは代表的な4つの施設・サービスについて説明します。
◆介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設は「老健」とも呼ばれ、身体や認知面で不安がある高齢者のリハビリをサポートする施設です。利用者が自立した日常生活を送ることが出来るように、生活リハビリなどを行いながら、在宅生活復帰をめざします。
◆特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホーム(特養)は、介護保険サービスが適用される公的な介護保険施設。入居できるのは、原則的に要介護3以上で、常に介護が必要であり、在宅での生活が困難な高齢者です。利用者は終身にわたって介護を受けることができます。
◆デイサービス
デイサービスは「通所介護」とも呼ばれています。利用者は施設には入所せず、昼間、介護施設に通って入浴や食事、レクリエーション、運動などの介護サービスを受けることができます。利用者は、要介護1~5の認定を受けた高齢者です。
◆訪問リハビリ
訪問リハビリとは、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったリハビリ専門職が、利用者の自宅に訪問し、在宅でリハビリを行うサービスです。利用者は、要介護認定を受けているか、主治医がリハビリが必要と診断した高齢者です。
介護施設で行うリハビリテーションは、主に介護認定を受けた高齢者を対象に行います。病院では、治療のためのリハビリを行うことが目的なのに対し、介護施設では身体機能の維持・回復が中心です。提供するリハビリの例や、病院での経験が活かせる点について解説します。
◆介護老人保健施設(老健)
老健では、利用者が自宅に戻って生活することを目指し、それぞれの体力や機能回復の様子に応じて個別・集団でのリハビリを行います。在宅復帰後は、スムーズに日常生活を送ることができるよう、たとえば片手でも着替えられる訓練や、包丁を使い安全に調理する訓練などを実施します。
◆特別養護老人ホーム(特養)
特養では、日常の生活能力の維持・機能低下の予防を目的とした生活リハビリを行います。関節可動域訓練や筋力訓練、歩行や排泄などのADL訓練といった個別リハビリはもちろん、利用者が楽しんでリハビリに取り組むことができるよう、レクリエーションを取り入れた集団でのリハビリも実施します。ラジオ体操や食事前の嚥下体操などがその一例です。
◆デイサービス
デイサービスでは、利用者の介護度の進行を予防し、日常生活の動作や認知機能の維持・改善のための運動を行います。病院や介護老人保健施設とは異なり、デイサービスは、作業療法士の配置は必須ではありません。また、医師の指導も必要ないため、リハビリとしてではなく、体操やゲームなどレクリエーションとして行うことも多くなっています。
◆訪問リハビリ
利用者の自宅を訪問し、自宅での身体機能の維持・回復に向けたリハビリを行います。利用者の状況に応じて、歩行や食事、着替えや座位の保持といった生活動作訓練、摂食嚥下訓練、ベッドから起き上がれない利用者を対象とした拘縮や褥瘡予防のためのマッサージなどを実施。また家族に対して、介助方法のアドバイスなども行います。
児童福祉業界は、子どもの発達や療育に関わる福祉サービスを行う業界のこと。厚生労働省によると、介護福祉の事業について明確な定義・範囲は示されていませんが、児童福祉法では児童は「満18歳に満たないもの」とされていることから、満18歳に満たない子どもを対象とした支援を行う業界であると言えます。
具体的には、保育園、放課後等デイサービス、児童発達支援、ひとり親家庭の支援、児童虐待対策、母子保健対策など。その中で作業療法士が活躍できる分野は、障害のある子どもや発達に遅れがある子どもに対し、適正な発達を促す「児童発達支援」の分野が挙げられます。
利用者は18歳以下の障害や特性を持つ子どもやその親。一般的な医療機関の利用者と比べ、特性や障害に応じたかかわり方が必要です。認知症の周辺症状や身体機能の低下に応じた関わり方が必要となる介護施設の利用者とも支援の仕方は共通していることもあります。また障害福祉業界との利用者層とも重なる部分もあります。
児童福祉業界において、作業療法士は障害のある子どもや発達に遅れがある子どもに対し、適正な発達を促すサポートを行います。近年、発達障害に関する認知は広がっており、それに伴い専門性ある作業療法士のニーズも高まっています。
作業療法士が活躍する場は、放課後等デイサービス、児童発達支援施設など。児童発達支援施設では、就学前の障害児や特性を持つ子どもに療育を行います。また、子どもだけではなく、親や保護者、在籍校の先生などに、子どもが生活・学習しやすくなる工夫や注意点などについてのアドバイスも実施。親や家族に対してのサポートも行います。
子ども本人や家族も気づかなかった特性や障害の課題を見つけだし、子どもの障害の特性を理解した上で、個別支援計画を立てるのも仕事のひとつ。子どもの些細な変化を見逃さない観察眼なども求められます。
児童福祉施設で、作業療法士が働く施設はどのようなものがあるのでしょうか。代表的な3つの施設の特徴と利用者について解説します。
◆児童発達支援センター
心身に障害を持つ子どもや、発達に遅れがある子ども、特性がある子どもとその家族の相談に応じ支援する施設です。福祉サービスを行う「福祉型」と、福祉サービスとともに治療も行う「医療型」の2種類があります。日常生活や自立するために必要な技能のトレーニングを行うほか、発達検査なども行います。
◆放課後等デイサービス
利用者は、小学校~高校までの障害のある子どもです。学校の放課後や土日祝日、夏休みや冬休みなど長期休暇中に通い、発達の支援や生活の自立を促す療育を行います。施設によって、運動に力を入れている施設、美術・造形を学べる施設、調理を行う施設など、さまざまな特色があります。
◆特別支援学校
心身に障害がある子どもや、重い病気を抱える子どもが通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。それぞれの学齢に合わせた教育を行いますが、子ども一人ひとりに応じた手厚い支援を受けることができます。学習上や生活上での困難を克服し、自立するために必要な知識や技術を習得します。
また、各自治体で行われる乳幼児発達健診も作業療法士が活躍できる現場のひとつ。子どもの運動、感覚、知覚、認知の様子をチェックしたり、親や保護者からの声を聞くなどして、発達障害などの早期発見、早期療育へとつなげていきます。発達の遅れを心配する親・保護者を対象に、日常生活の中でできる発達を促す遊びの提案も行います。
医療機関では、患者さんの早期離床や在宅復帰、社会復帰を目指すリハビリを行いますが、児童福祉業界の施設では、障害を抱える子どもや発達障害の子どもを対象に、心身の発達を促すことや生活能力向上のためのリハビリを行います。
子どもの年齢や障害・特性はそれぞれ差があるため、一人ひとりに応じたリハビリを実施。理学療法士が「座る」「立つ」といった基本的な動作能力の回復・維持・向上を担いますが、その後、作業療法士が日常生活や学校生活、社会生活の困りごとが少しでも軽減できるような訓練を行います。
発達障害の子どもの中には、縄跳びなどの協調運動や手先の細かい作業が苦手であったり、体幹が弱いケースも見られます。そうした課題解決のためにビーズを利用した工作や、体幹トレーニングなどの運動療育を行います。訓練というよりも、子どもたちが楽しく継続することができるように、レクリエーションの要素を多く取り入れるのが特徴です。
病院との違いは、放課後等デイサービスなどの施設では、医師が常駐していないこと。医師の指示なく、仕事を進めていかなければなりませんが、これまで病院でさまざまな症例の患者さんと接してきた経験が役立つでしょう。
障害福祉業界とは、身体や精神、知的発達に障害を持つ人が、地域で生活しやすくなるように支援するサービスのこと。「障害者総合支援法」に基づいてサービスが提供されます。
対象となるのは、18歳以上の身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)と、満18歳に満たない身体・知的・精神に障害のある子どもや、発達障害の子どもです。
障害者総合支援法で指定されている難病は、障害福祉サービスの対象者となるので、一部の利用者は医療業界とも重なります。児童福祉業界の利用者である生まれつき心身に障害を持つ子どもや、発達障害の子どもも同様です。65歳以上になると、障害者でも介護保険サービスが優先的に適用されるため、65歳未満が主な利用者となります。
障害福祉業界における作業療法士の役割は、利用者が障害を抱えていたとしても、その人らしく日常生活を送ることができるように支援することです。
生まれつき障害を抱えている利用者のほか、加齢や病気、ケガなどで、中途障害者となる利用者もいます。日常生活において、さまざまな困難を抱える利用者に、作業療法を通して身体機能や生活能力の維持・回復・向上を図っていきます。
障害や状態は、利用者によってさまざま。作業療法士は利用者の体・障害の様子をよく見て、どんな困りごとを抱えているのか、どうしたらスムーズに日常生活を送ることができるかを考え、適切なリハビリ計画を立てていきます。「食事」「入浴」「着替え」「鉛筆で文字を書く」といった、生活の基本となる動作を作業療法士がサポートすることで、利用者のQOL向上につながり、社会参加・復帰への意欲を引き出すことにもつながります。
作業療法士が障害福祉施設で働く、代表的な3つの施設の特徴と利用者について解説します。
◆障害者福祉センター
地域に住む障害者の社会生活支援を行うのが障害者福祉センターです。障害者が自立して日常生活を送ることができるように、機能訓練やレクリエーションを行います。地域で暮らす障害者同士の交流を図ったり、障害者本人や家族の相談にも対応。利用者は、地域に住む障害者とその家族です。
◆障害者入所施設
家庭で介護を受けることが難しい障害者が入所することができるのが、障害者入所施設です。食事や入浴といったサービスや身体介助などが提供されますが、身体機能の維持・回復を目指すリハビリも実施。就労移行支援、就労継続支援などのサービスも受けることができます。形態もさまざまで、数日間の短期入所ができるショートステイや、数人で共同生活を送るグループホームなどもあります。
◆就労移行支援事業所
さまざまな障害や病気を抱える人が、通いながら技術や知識を身に着け、就職することができるように支援する施設です。利用者は就労意欲がある障害者。作業療法士は、クライアントである障害者の作業能力を評価し、苦手であったり課題が残る作業を見つけ出して、就労のために必要な知識や技術の訓練を行います。
障害とひとことでいっても、種類・等級・年齢など一人ひとり異なります。言い換えれば、利用者の数だけ提供されるリハビリメニューの種類があるということになります。
病院では、少しでも早く身体機能を回復させること、早期の退院を目指すリハビリが中心。対して障害者施設では、残っている機能でいかに日常生活をスムーズに送ることができるかに重きを置いた訓練を行います。たとえば、ベッドから車いすへの移乗、片手でもスピーディに着替えることができる体の動かし方、歩行器や補助具を使用した歩行訓練・食事の訓練などです。
就労移行支援事業所や放課後等デイサービスでは、一人ひとりの作業能力・学習能力を見据え、足りない部分を補う訓練を行います。文字の書き写しや細かい作業が苦手な人、障害でペンを持てない人には、それらを補う道具の提案なども実施。介護施設や障害者施設では、身体機能を維持するために体操や器具を使った運動を行います。寝たきりになった利用者に対しては、拘縮予防や改善を図るマッサージを行うこともあります。
病院では、利用者の早期の退院を目指すため、関わり方も短期間である傾向にありますが、介護・障害福祉業界では、長期間にわたって利用者と関わることができることが魅力といえます。加齢や障害、特性によって言葉でうまく表現できない利用者もいるので、表情やしぐさなどで意思を汲み取り、リハビリを提供していくことも時として必要となります。
作業療法士は、医療・介護の現場で働くというイメージが強いですが、活躍の場は幅広く、刑務所・少年院といった矯正刑事施設や地域住民の健康や生活を支える行政機関も働く場所となります。
刑務所や少年院の受刑者の中には、知的障害や精神障害、発達障害などの特性を持つ人も少なくありません。障害や特性によって受刑中の生活に課題を抱える人や問題行動をとってしまう人もおり、作業療法士はそうした困りごとを抱える受刑者にリハビリを行います。
また、公的機関の代表的なものは各自治体の保健所です。高齢者や障害者、その家族からの健康に関する相談を受けるほか、乳幼児期に定期的に行われる検診などで、障害や発達障害などの子どもを早期発見し、早期療育へとつなげます。
先に説明したように、刑務所や少年院の受刑者の中には、知的・精神障害を抱えている人、発達障害などの特性を持つ人もいます。受刑するまで、その障害や特性を見過ごされてきた人の中には、刑務所・少年院での生活を送る中、規律や集団行動を重視する生活に適合できず、問題が発生することも少なくありません。出所後も、うまく社会になじめず、再び罪を重ねてしまうといったケースもあります。
作業療法士は、知的・発達障害、精神障害がある受刑者を対象に、その問題性や課題に焦点を当てた教育プログラムを行います。自身の困りごとや問題行動が軽減されることで、自分の犯した罪と向き合うこともできるでしょう。受刑中に自分の障害や特性を知り、出所後、再犯することなく生活ができるような働きかけも求められます。
保健所などの行政機関で働く作業療法士は、保健所での乳幼児健診、健康相談などを通し、子どもを持つ親や高齢者、障害を持つ人から相談を受ける機会が多くあります。作業療法士としての観点から課題を見つけ出し、必要な支援を受けることができるよう、住民と医療機関・関連施設をつなぐパイプとしての役割を担います。
作業療法士が司法・行政の場で働く施設としては、矯正施設や保健所が挙げられます。それぞれの施設の特徴などを解説します。
◆矯正施設
作業療法士が働く矯正施設は、「刑務所」「医療刑務所」「少年院」といった刑事施設です。これらの施設は、罪を犯した者や非行のある少年・少女を収容し、更生のための処遇を行います。
「刑務所」は、懲役や禁錮または拘留に処せられた者を拘置する刑事施設です。「医療刑務所」は、重い精神疾患や病気、薬物やアルコールの依存症など、専門的な医療行為を必要とする受刑者を収容する刑事施設。「少年院」に収容されているのは、家庭裁判所から保護処分として送致された少年・少女です。
◆保健所
保健所は、都道府県、政令指定都市、中核都市などに設置されている行政機関のこと。地域住民を対象に、保健・衛生・生活環境などに関するサービスを提供します。具体的には、乳幼児の健康診断の実施や健康指導、障害福祉サービスの利用支援、感染症の予防対策、食中毒などの検査、医療相談などです。
矯正施設では、作業療法士は臨床心理士や精神保健福祉士などの医療・福祉の専門家とともにチームを組んで、対象となる受刑者に特別なプログラムを実施します。
識字に困難がある者、注意力が散漫になり集中力が続かない者、力の加減がうまくできず手先が不器用な者などには、理解できる方法はないか作業療法で確認を行い、本人に適した解決方法を探ることになります。精神障害で不安を抱える受刑者などには、手作業や園芸といった作業を通し、心の安定や自信につなげていきます。心療内科や精神科で勤務経験がある作業療法士は、これまでのスキルを役立てることができるでしょう。
保健所では、地域住民を対象とした健康指導や体操教室で作業療法士が指導を行うこともあります。乳幼児健診などでは、保健師とともに子どもの発達を促す体操や手遊びをアドバイスすることもあります。保健所は地域住民に対して、健康や医療に関する正しい情報を発信していく役割もあるため、医療現場に関わってきた経験は役に立つはずです。
病院や介護施設などでキャリアを積み重ねて、作業療法士として独立・開業することは可能なのでしょうか。
結論から言ってしまうと、作業療法士の資格だけで開業することはできません。作業療法士がリハビリを行うことができるのは、医師が患者に「リハビリが必要である」と診断された場合に限られます。医師の診断書や指示がない場合、単独でリハビリを行うことはできないのです。
作業療法士としては独立できませんが、これまでのキャリアを活かして、高齢者の身体機能の維持にも貢献するデイサービス事務所を立ち上げるという方法があります。近年はリハビリ型デイサービスも増えているため、作業療法士が運営する施設としてアピールできることでしょう。
作業療法士の資格だけでは開業はできませんが、特定の病院や施設に所属せず、いくつかの医療・介護事業所を掛け持ちするフリーランスの作業療法士という働き方もあります。しかし、そういった形で活動する作業療法士はまだ少なく、フリーランスで活動する作業療法士の認知を広げたり、営業活動するという努力も必要になってきます。
そのほか、スポーツインストラクター、パーソナルトレーナー、福祉住環境コーディネーターなどの資格を取得し、フリーランスで働くという方法もあります。医師の指示なくリハビリを行うことはできませんが、これまでのスキルや経験を活かし、効果的な身体の動かし方などを指導したり、高齢者や障害者が生活しやすい住環境を造るアドバイスをすることもできます。
リハビリテーションの専門職である作業療法士。病気・ケガを負った人や精神疾患・特性を持つ人、生まれたばかりの乳児から高齢者まで、幅広い人が「その人らしく」日常生活を送ることができるようにサポートする仕事です。それだけに活躍の場は病院だけに留まらず、介護施設、放課後等デイサービス、行政機関など豊富。複数の事業所を掛け持ちしてフリーの作業療法士として患者や利用者に関わることも可能など、多様な働き方もできます。
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