理学療法士(PT)というと、病院やクリニックでリハビリテーション業務に携わるというイメージが強いですが、病院の他にどのような業界で働くことができるのでしょうか。
今回は病院以外にも理学療法士が活躍できる業界について解説します。理学療法士のスキルを活かし、病院以外の業界に転職を検討している方はぜひ参考にしてください。
1 理学療法士の資格や経験が生かせる業界は?
2 高齢者の生活を支える「介護業界」
3 子どもの発達を見守る「児童福祉業界」
4 障害がある人の生活を支える「障害福祉業界」
5 業界の違いを理解し、スキルを活かせる場所を探そう
身体に障害がある人に、運動療法や物理療法などを用いて、基本動作能力の維持・回復をはかるリハビリの専門職「理学療法士」。医療業界以外でも、理学療法士の資格や経験が生かせる業界は数多くあります。
こちらでは、理学療法士が活躍できる代表的な3つの業界「介護業界」「児童福祉業界」「障害福祉業界」について紹介します。
厚生労働省によると、2030年には高齢化率は31.8%となり、国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者となる見込みとされています。こうした高齢者の中でも日常的に何らかの支援が必要な人に、介護サービスを提供するのが介護の仕事。
今後も高齢者人口は増えていくことから、市場規模も大きくなっていくことが予想され、将来性ある業界と言えるでしょう。
介護保険によるサービスを利用できるのは、日常生活で何らかの介助を必要とする要介護(要支援)認定者の方。ひとことに介護施設といっても、訪問介護、通所介護施設(デイケア、デイサービス)、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、介護用品関連会社などさまざまで、施設によって利用者さんの特性も異なります。
加齢に伴う身体能力の衰えのほか、認知症など高齢者特有の症状を持つ利用者さんもおり、一人ひとりの介護度に合わせた対応やケアが必要になります。
健康な人が交通事故や運動などでケガを負った場合、理学療法士は身体の機能改善に重点を置いて、できるだけ早く社会復帰できるようなリハビリを実施することが一般的です。
しかし介護業界の場合、利用者さんの多くは日常生活において何らかの介助が必要な要介護(要支援)認定者。そのため、劇的に動作能力を改善・回復させるというよりも、利用者さんが少しでも自立した生活を送ることができるよう、寝返り・起き上がり・座位保持・立ち上がり・立位保持・歩行といった基本動作能力の回復・維持を目的としたリハビリが主になります。
介護業界での理学療法士の業務は、施設によって変わるため、一概に同じとは言えません。
たとえば、介護老人保健施設であれば、在宅復帰を目指したリハビリメニューを作成。衣類の着脱や階段の昇り降りなど、利用者さん一人ひとりに応じた内容のリハビリテーションを行います。デイケアや訪問介護、老人ホームなどでは、自立した生活を過ごすための能力維持や向上を目指したリハビリテーションを実施します。
理学療法士はリハビリの専門職であるため、サービス担当者会議などで専門的な立場から提案やアドバイスを求められることもあるでしょう。
理学療法士が介護業界で働く場合、どのような施設が選択肢としてあるでしょうか。ここでは理学療法士が活躍している代表的な施設「介護老人保健施設」「デイサービス」「デイケア」について解説します。
◆介護老人保健施設
介護老人保健施設(老健)は、介護が必要な方の在宅への復帰を目的に、医師による医学的な管理のもとで、看護・介護といったケアを提供する施設です。利用者さんは、要介護1以上の認定を受けた人のうち、病状が安定しており入院治療の必要がないけれど、リハビリテーションを必要とする人。機能回復を目指したケアを行うため、日々利用者さんの変化が実感できるのが特徴です。
◆デイサービス
通所介護とも呼ばれるデイサービスは、心身機能の維持、家族の介護の負担軽減などを目的としています。対象者は要介護1~5の認定を受けた人で、利用者さんは日中施設に通い、入浴・運動・食事などの介護サービスを日帰りで受けることができます。施設によってリハビリ特化型、認知症対応、レスパイト型など特色があり、施設に通う利用者さんの介護度もさまざまです。
◆デイケア
デイケアは別名「通所リハビリテーション」と呼ばれている施設です。対象者は要支援1~2、要介護1~5の認定を受けており、医師からリハビリが必要と判断されている人。利用者さんは、老人保健施設や病院などに日帰りで通い、生活機能向上のための訓練や、食事・入浴などのケアを受けることができます。
病院・クリニックといった医療施設と介護施設とでは、リハビリに関する考えが異なります。
病院では自宅や職場復帰を目指すために、身体の機能改善をメインにリハビリを行うことが一般的。とくに急性期病院では、早期離床を促すため、数日~1カ月ほどの短期間のリハビリを行います。
対して介護施設では、対象となる利用者さんが身体機能の劇的な機能改善は望めないケースがほとんどであるため、基本動作能力の回復・維持を目的としたリハビリが主となります。期間も長期にわたって継続的に行うことが主流です。
通所リハビリ(デイケア)では、歩行訓練、体操、入浴・食事・トイレの介助などを行い、利用者さんが自立した日常生活を送ることができるよう支援します。理学療法士は、主に徒手療法や運動療法を用いたリハビリを行います。
利用者さんの状況に応じて、自宅などに出向く訪問リハビリを行うこともあります。利用者さんがいつも日常生活を送っている空間でリハビリを行うため、より生活に即した訓練を行うことができます。病院と自宅の中間に位置する老健では、在宅復帰が最終的な目的です。動作能力の向上を目指し、運動療法や物理療法といったリハビリを実施します。
病院は介護施設と比べ、利用者さん(患者)の入れ替わりが早いので、さまざまな症例を経験している理学療法士も多いのではないでしょうか。そのような経験は、介護施設で働くにも大いに役立つに違いありません。
リハビリの専門職として、介護施設や病院で理学療法士としてキャリアを積んだ人の中には、「独立・開業」というキャリアプランを描いている人もいるでしょう。しかし、日本では理学療法士には「開業権」がないため、独立して「理学療法」を提供することはできません。理学療法士が理学療法を提供できるのは、医師の指示の下と法律で定められているからです。
とはいえ、実際には独立・開業している理学療法士も存在します。「理学療法」は提供しないけれど、これまでの経験を活かせる仕事として、整体師やパーソナルトレーナーとして独立・開業しているのです。
介護現場で働いていた理学療法士の中には、レクリエーションや運動を通し、利用者さんに機能訓練を行うデイサービスを開業する人もいます。
児童福祉とは、児童を対象に行う福祉サービスのこと。
児童福祉法において、児童は「満18歳に満たないもの」と定義されており、満18歳に満たない子どもを対象としたあらゆる支援が対象となります。保育子育て支援からひとり親家庭の支援、児童相談所、児童虐待対策、母子保健対策など、非常に範囲は広いですが、理学療法士が活躍できる児童福祉の分野としては、「児童発達支援」の分野が挙げられます。
さまざまな事業者が児童発達支援に参入していますが、その中で近年、大きく伸長しているのが、障害を抱える子どもの療育の場となる「放課後等デイサービス」や「児童発達支援事業所」。対象となるのは、障害児や発達障害児、そしてその保護者などです。
発達障害という言葉が広く認知され、早くからその傾向がある子どもに適切な支援を行うことが可能になった現在、その受け皿として規模が拡大しています。
利用者さんは特性を持つ子ども達なので、一般的な病院やクリニックと比べ、それぞれの特性や発達に応じたかかわり方が重要となります。これは、利用者さんの認知症の周辺症状や身体機能の低下に応じたかかわり方が必要となる介護施設とも共通していると言えるでしょう。
児童発達支援の分野で理学療法士に求められることは、障害や特性のある子どもの発達課題を見つけ出し、それに対じたプログラムを行うこと。
児童発達支援の施設を利用する子どもは、障害の重さ、発達の度合いもさまざまですが、中には本人や家族も自覚していない特性を持っていることもあります。親や本人からのヒアリングや、数回の通所では見えてこなくても、継続的に通所することで見えてくる課題もあるのです。
こうしたリハビリ専門職ならではの気づきをプログラムに反映させ、運動機能の向上や日常生活の支援、学習支援などを行うことが理学療法士の役割と言えます。
また、子どもが日常生活を送る上での工夫、注意点などについて、保護者にアドバイスを行うこともあります。施設の中においても、保育士や看護師などに、リハビリという観点から支援策を提案することもあるでしょう。
保護者や在籍校の教師も気づかない子どもの課題を見出し、特性に合わせてアプローチを試みる。その成果が形になって現れ、子どものQOLが向上していくと、子どもにも自信が生まれます。こうした成長を身近で見ることができるのも理学療法士の仕事の喜びですが、それには些細な変化を見逃さない観察眼や、子ども一人ひとりの年齢、性格、特性に合わせ、柔軟に対応していく力も問われます。
児童福祉施設で、理学療法士が働く施設にはどのようなものがあるでしょうか。代表的な「児童発達支援センター」「放課後等デイサービス」「特別支援学校」について解説します。
◆児童発達支援センター
心身に障害を持つ子どもや発達に特性がある子どもとその家族の相談に応じ支援する施設です。人との関わりや日常生活、環境への適応方法、自立するために必要な技能のトレーニングを行うほか、発達検査なども行います。
◆放課後等デイサービス
小学校~高校生までの障害のある子どもが、放課後や学校の休業日・長期休暇中に通うことができる施設です。生活力を向上させるためのプログラムが行なわれていますが、専門的な療育を行うところ、運動に力を入れているところ、美術・造形を学べるところなど、施設によってさまざまな特色があります。
◆特別支援学校
心身に障害がある子どもや、重い病気を抱える子どもが通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。幼稚園、小学校、中学校、高等学校に準じた教育を受けるほか、学習上や生活上での困難を克服し、自立するためのトレーニングを受けることができます。
患者さんの早期離床や社会復帰を目指す病院のリハビリに対し、児童福祉支援の現場では子どもの心身の発達を促すことを目的に、QOL向上や自立した生活のためのリハビリを行います。
障害や発達の偏りには個人差があるため、リハビリの種類もさまざま。障害や発達の遅れによって立ったり歩くことに困難を抱える子どもには、座位の保持や立つ訓練、歩行練習なども行うこともあります。小さな子どもの場合、家庭でもできるトレーニングを保護者に伝え、施設と家庭で連携しながら機能の向上を目指します。
発達障害の子どもの中には、「体幹が弱い」「協調運動や球技が苦手」「指先の細かい動作が苦手」という特性を持つ場合も少なくなく、それらの機能を鍛えるためにトレーニングを実施することもあります。バランスボール遊びやダンスなどを通して、楽しみながら身体機能を向上させる放課後等デイサービスも多くなっています。
病院では医師の指示のもとで理学療法を提供してきましたが、放課後等デイサービスでは医師は常駐していません。そのため、医師がいない環境で仕事を進めていくということが大きな違いと言えます。病院とは違う仕事の流れに戸惑う理学療法士もいるかもしれませんが、これまでさまざまな症例の患者さんと接してきた経験と知識は大いに役立つはずです。
障害者福祉とは、身体、知的発達、精神に障害を持つ人々に対して、自立を支援する社会的サービスのこと。2021年度発表の内閣府調査によると、日本の障害者総数は約964.7万人で、人口の約7.6%に相当します。今後も、障害者人口は増加すると予想されており、支援者や専門職のニーズは高まると考えられています。
そうした障害者の支援に関する事業に携わっているのが障害福祉事業。「居宅介護」「重度訪問介護」「生活介護」「短期入所(ショートステイ)」「自立訓練(機能訓練・生活訓練)」「自立生活援助」「共同生活援助(グループホーム)」などさまざまなものがあり、前述した障害児を対象とした「児童発達支援」「放課後等デイサービス」もそのひとつです。
施設やサービスを利用するのは、身体、知的発達、精神に障害を持つ人で、介護業界や児童福祉業界のように年齢で制限されることはなく、利用者さんの年齢は乳児から高齢者まで幅広いのが特徴です。重度の身体障害から、表からはわかりにくい心の障害を抱える人まで、利用者さん一人ひとり状態も異なります。
障害者の中には、加齢や病気、けがなどで日常生活動作に困難を抱えている人も多く存在します。主にそのような利用者さんに理学療法士が介入し、基本動作能力の維持・回復を促すリハビリテーションを提供します。
一般的な病院では、早期の社会復帰を目指すリハビリテーションを行うことが多くなりますが、障害者施設の利用者さんは劇的に機能が回復するケースは多くありません。そのため、現状の機能の維持することや、今、残されている機能でいかにQOLを上げていくかが重要になります。
リハビリ専門職である作業療法士や言語聴覚士とも連携し、利用者さんの状態をよく見極め、適切なリハビリ計画を立てることも大切な仕事。必要に応じ、カンファレンスで今後のリハビリ内容や目標の見直しについて提案することも求められます。
また、作業療法士や義肢装具士とともに、義足や義手、装具の製作・調整に携わることもあります。適切な義肢装具を装着することで、著しく日常生活動作が向上することもあることから、身体機能を正しく評価することも理学療法士の大切な仕事と言えます。
障害福祉施設で、理学療法士が働く場合、どのような選択肢があるでしょうか。ここでは「障害者福祉センター」「障害者入所施設」を例に挙げて紹介します。
◆障害者福祉センター
地域にて、障害者の社会生活支援を行う障害者福祉センター。自宅で暮らす障害者が自立して日常生活を送ることができるように、デイサービスでの機能訓練、スポーツ・レクリエーションや交流の場を設けるほか、障害者本人や家族の相談にも応じています。対象となるのは、地域に住む障害者とその家族。理学療法士は、デイサービスや障害者福祉センターで定期的に開催している機能訓練にて、利用者さんにリハビリを行います。
◆障害者支援施設
障害者支援施設は、家庭で介護を受けることが困難な障害者が入所できる施設。食事や入浴といった身体介助や自立訓練のためのリハビリ、就労移行支援、就労継続支援などのサービスを受けることができます。そのほか、入所できる施設としては、数日間の短期入所ができるショートステイ、数人で共同生活を送るグループホームなどがあります。
障害福祉業界では、利用者さん一人ひとり障害の種類・重さ、年齢などが異なるため、理学療法士が提供するリハビリの計画もさまざまです。
たとえば、ベッドの上で過ごすことが多い入所者さんに対しては、離床時間を長くできるよう、車いすの乗車訓練や歩行器を使用した歩行訓練などを行います。寝たきりで基本動作ができなくなった利用者さんには、拘縮予防や改善を図るために、ベッドの上でマッサージなどを実施。脳卒中の後遺症で半身に麻痺が残った利用者さんには、歩行訓練や基本動作訓練、日常生活訓練を行うほか、電気刺激などの物理療法を行うこともあります。
在宅で過ごす障害者が通うデイサービスでは、利用者さんに体操などの運動療法を行ったり、レクリエーションを通して身体を動かす指導を行います。
一般的に病院のリハビリは利用者さんの回転が早いですが、障害者施設では長期間にわたって継続的にリハビリを提供しています。コミュニケーションを重視した長期的なケアを行うことも、病院やクリニックとは違う部分でしょう。
利用者さんの身体機能の回復を支えるリハビリの専門職・理学療法士。今回、紹介した3つの業界は、いずれも長期間にわたって利用者さんのリハビリに関わることができるのが特徴です。時間をかけて関わる中で、利用者さんとの信頼関係を築くこともできます。
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