毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「戦争経験者の言葉」という話題を紹介します。
新型コロナの影響で『巣ごもり生活』が続いた日本列島
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、緊急事態宣言が発令されたのが4月7日のこと。当座の期限は5月6日までだったが、首都圏を中心に期限が延長され、巣ごもり生活は続いている。
せっかくの大型連休も自宅で過ごすことを強いられた子どもたちの気持ちを思うとやるせないが、外に出られない状況が苦痛なのは、介護施設で暮らすお年寄りも同じ。
多くの介護施設では、感染拡大を防ぐため、面会さえ出来ない状況が続いているが、誰もが未経験の特殊な大型連休をどのように過ごしたのだろうか?
外出自粛・面会制限で介護施設のお年寄りたちの状況は?
都内の介護付き有料老人ホームで働くイトウさんはこのように語る。
「私が働いている施設では、2月なかばから面会制限が続いており、家族の面会もNG。ここ2か月近くは食事も一斉に食べず、全体を2組に分けて、食堂と居室で交互に食べるようにしていて、入居者同士のコミュニケーションにも制限がかけられています。
そのことが利用者さんにどれだけ影響しているのかは分かりませんが、職員への暴言や暴力、食欲不振、睡眠障害などを訴える方が普段より多く、認知症の症状が急激に進行した方もいます」
面会制限が続くことに不満を漏らす家族もいるが、のっぴきならない状況だけに、「感染者が出たら、大勢の死者が出ます」「施設が崩壊します」と、強い言葉で協力を要請する文書を配布しているのだそう。
人生経験豊富だからこそ思う『自分の家にいることの幸せ』
辛い状況は続くが、長い人生経験を持つ方の言葉に救われることも多いという。
「Yさんという90代の女性は、レクリエーションに参加したり、散歩や外気浴に出かけたりするのが大嫌いという根っからのインドア派。現在はレクや散歩はすべて取りやめになっていますが、これはYさんにとっては願ったり叶ったりの状況です。
Yさんは戦時中に満州で暮らしていて、文字どおり着のみ着のまま、命からがら日本に帰ってくるという経験をしており、
“安心して暮らせるだけで幸せ”というのが口癖。
外出自粛のニュースなどを見るたびに、Yさんは『自分の家が一番ラクなのに』『“家にいて下さい”っていうなら、いくらでもいられるわ』と、言っています」
戦争経験者が語る、当たり前の生活の幸せ
今や貴重な証言者だが、介護施設には戦争を経験した人は多い。Mさんという90代の男性入居者は、会う人すべてに話す悲しい思い出があるという。
「Mさんは昭和の初め生まれですが、同級生の間では、ほんの数週間の誕生日の差で、召集令状が来た人と来ない人がいたそうです。そのため、常に“自分だけ生き残って申し訳ない”という思いがあり、他人に迷惑をかけるなどもってのほか。
『外に出られなくて、ストレスがたまらないですか?』と聞いたスタッフは、『温かいものがお腹いっぱい食べられて、温かい布団があって、テレビも見られて、お風呂にも入れる。文句を言ったらバチが当たる』と言われ、思わず『すみません』と謝ったそうです」
誰もが戦争体験など二度と味わいたくないが、辛い体験を糧にできるのは素晴らしいこと。
ただ、イトウさんの施設では、映画鑑賞、カラオケ、絵手紙交換など、レクリエーションをマメに行って“ガス抜き”を行っており、“平時”とは違ったきめ細かい配慮を心がけているそうだ。