毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「元・仕事人間の入居者が語る『仕事はマジメにやるな!』」という話題について紹介します。
「マジメ」と「仕事人間」は違う?!
仕事というのはマジメにやるのが当たり前。
しかし、「仕事人間」という表現になると、そこには否定的なニュアンスも含まれてしまう。
都内の介護付き有料老人ホームで働くナカムラさんは、ある入居者から「仕事をマジメにやるな!」と盛んに吹き込まれ、困惑していると話す。
ナカムラさんは20代の女性で、介護業界に飛び込んで数年目。
高校卒業後、いくつもの仕事を転々としてきた彼女だが、おっとりした性格が介護の仕事に向いていたようで、「今は介護以外の仕事は考えられない」と、スキルアップを図るべく、仕事と並行して資格取得の勉強も続けている。
マジメな介護職に入居者がかけた言葉は…
そんなナカムラさんに「マジメに働くな!」と“悪魔のようなささやき”を繰り返しているのは、80代の入居者のYさんだ。
ナカムラさんが働く老人ホームは非常にハイグレードで、社会的ステータスが高い入居者が多いが、その中でもYさんは別格の存在。
誰もが名前を知る超有名企業の社長を務め、経済誌で何度もインタビューを受けたような人物だ。
「Yさんは施設内でVIP扱いされており、気難しい人としても有名でした。
しかし、私は新聞やニュースを見ないので、Yさんが社長を務めていた会社がどれだけ大企業なのか知らず、普通に接していたところ、それが気に入られたようで、時々雑談するようになったんです」
仕事で成功したYさんが抱えていたある悩み
施設の入居者は、誰もが話し相手を探しているもの。
時間を見つけてYさんの話を聞いていると、社会的には成功したとみなされているYさんの、もう1つの顔が明らかになってきたという。
「話を聞いていくと、Yさんが典型的な仕事人間だったことが分かりました。
平日は毎日終電近くまで仕事をして、週末も仕事か職場の人とのゴルフ。お子さんの運動会や学芸会などの学校行事にも、1度も足を運んだことがなかったそうです。
当然、子どもたちは父親であるYさんにまったくなついておらず、海外転勤が決まった時に、“一緒に行くか?”と尋ねたら、間髪を入れずに“絶対イヤ”と言われたそうです」
定年退職してわかった「仕事人間」の孤独
それでも順調に出世したのだから、幸せな人生ではあるが、「仕事第一」の生活のツケはしっかり退職後に回ってきたそうだ。
「Yさんは会社員時代、名刺交換した相手は1万人以上いて、夜はいつも予定が入っており、交友範囲は広い方だと思っていたそうです。
けれども定年退職したら、仕事関係で知り合った人間との関係は完全に途切れ、『20代からずっと仕事だけしてきたから、趣味もないし、仕事以外で会う友人はゼロだ』と言うのです。
だからYさんはしきりに、
『仕事ばっかりやってたら、気づいたら一人ぼっちだぞ』
『友達と仕事仲間は別だからな』
『仕事なんかほどほどにして、いろんな人と遊べ』と言うのです」
Yさんの言葉を額面通り受け取るのは問題だが、まったく異なるバックグランドを持つ入居者たちと触れ合うことで、新たな知見を得られるのは介護の仕事の魅力だ。
ただ、人生の大先輩からのアドバイスはありがいと思うナカムラさんだが、今働いている老人ホームの同僚たちとは非常にウマが合い、休日もしょっちゅう遊びにでかけているのだそう。
同僚とは、Yさんについて「会社で偉かった人でも苦労はあるのね」と言い合っているそうだ。