毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、前回に引き続き「災害時の東京の介護現場」に関する話題を紹介します。
日本人の心にいまだに深く刻まれている東日本大震災から4年が経過した。国民が一体となって未曾有の大惨事に向かい合ったあの震災時には、ヘルパーたちにもさまざまなドラマがあったようだ。
いつもは暴言ばかりの利用者が…
東京都下の事業所に務めるヘルパーのAさんは、地震発生後、利用者のお宅を1軒1軒回り、安否を確認していた。その中の1軒は、車いす生活を送る85歳の男性のお宅で、その家は築50年以上の木造の平屋。家では本棚や家具などがのきなみ倒れ、男性はなすすべもなく、車いすに座ったままだったという。
Aさんがお宅を訪れると、普段から“名物オヤジ”としてヘルパーの間で知られていたその男性は、「おせー(=遅い)じゃねーか!」「風邪引いちまうだろ!」(電気が止まっていた)と、ひと通りの“暴言”を吐いたものの、Aさんが、他の利用者の家も回らなくてはいけないことを伝えると、「助かったぜ」「ありがとよ」と、普段の言動からは考えられない言葉が返ってきたのだとか。「こんなもん戦争に比べりゃ…」と気丈に語る男性の言葉に、Aさんは戦争経験者の強さを感じたという。
付き合いのなかったご近所さんが…
同じく東京都下の事業者に務めるヘルパーのBさんは、地震発生時、デイサービスに携わっていた。当日は数人がデイサービスを利用しており、家族が迎えに来ることができなかった女性をお宅に送ったところ、その女性が住むマンションのエレベーターは停電でストップ。途方に暮れていたところ、普段はまったく交友のなかったマンションの住民が「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれ、結局スタッフとマンション住民の合計4人で、女性を4階まで階段で担ぎあげたという。
災害で、介護の仕事が見直された?
今回話を聞いたAさんとBさんは、ともに東京都下の事業所に勤務。甚大な被害を受けたエリアではなかったため、直接生死に関わるような利用者はいなかったという。
前述のような心あたたまる話のほか、「安否確認で訪れたお宅で、いきなり買い物を頼まれた」「車で安否確認に向かったところ、激しい渋滞に巻き込まれてしまい、まったく戦力にならず」といった失敗談や、「事業所のおむつやリハビリパンツのストックが明らかに足りなかった」などの問題も語ってくれた。
さらに2人は口を揃えて、「震災を通じて、我々ヘルパーの仕事が見直された」という旨を語っている。こういった不測の事態には、ヘルパーの奉仕に対する感謝の念が見直される、という面があるのかもしれない。
大災害は二度と起きては欲しくない。しかし、いつ起こるかはわからない。災害に備えて、備品や行動をあらかじめ準備しておくことも、介護の仕事のうち、と言えるだろう。