「要介護度の改善」で介護報酬を判断するのは正しい?
検討が進められている、2018年度の介護保険制度改正。
自立支援につながる介護で、実際に状態改善を実現した事業者に介護報酬を手厚くする仕組みが、いよいよ導入されることになりそうです(*)。
今、評価指標を検討中のようですが、記事によれば、要介護度の改善が指標の一つとなるのは確実のよう。
さらに、サービスで利用者のニーズがどの程度満たされているかも反映する方向のようです。
要介護度で状態が改善したか否かを見ることについては、以下の理由から妥当性に疑問があります。
・認定調査の実施レベルには調査員によってばらつきがある
・認定審査会の判定基準には審査会ごとにばらつきがある
・要介護認定のロジックは、「介護の手間」を数値化した「要介護認定等基準時間」によって組み立てられており、対象者の「状態」を評価するものではない
本来の利用者ニーズを、正しくアセスメントできているのか
一方、「サービスで利用者のニーズがどの程度満たされているか」という評価基準も、必要性は理解できますが、どのようにして評価するのかとても難しさを感じます。
というのも、果たして最初に利用者のニーズを正しくアセスメントできているか、という疑問があるからです。
たとえば、ケアマネジャーが「家の風呂に入れない」と利用者に言われた場合。
そのニーズを解決するために、入浴目的のデイサービス利用を組み込んだケアプランを立てる。そして、それを受けてデイサービスで、「楽しく入浴する」という通所介護計画を立てる。
しかし、デイサービスで入浴できたから、これで「ニーズが満たされた」というわけではないのです。
本来、家で風呂に入れないのはなぜかをアセスメントして、そこで見出したニーズを解決する支援をしていかなくてはいけないからです。
下肢筋力の低下で風呂をまたげないのでか。風呂の構造に問題があるのか。認知症が進み、清潔を維持する意識が持てなくなっているのか。心臓疾患があって家での入浴に不安があるのか。
入浴できない理由によって、対応はまったく異なります。
そもそもの出発点であるニーズを正しく把握できていなかったら、介護報酬を手厚くする必要はありません。このあたりをどのように考えていくのか。
とても難しいことだと思います。
ある事業者が「胸を張って基準を破っている」と語る理由
しかしそもそも、多数を制御していくために作られた制度に、不備のない完璧さを求めること自体が間違っているとも言えます。
国が制度を定めると、どうしてもその制度に従って動こうと考えてしまいがちです。
しかし、そうではなく、制度が実現しようとしていることは何かを考えて、制度を運用していくことが必要です。つまり、どんな制度も、使いこなしていく運用側の意識が大いに問われるということです。
ある有料老人ホーム事業者は、居室の広さは18㎡以上と定められていることを知りながら、あえて9~38㎡まで様々な広さの居室をつくったといいます。
広い居室は夫婦向けに。9㎡の狭い居室は、寝たきりでベッド上で過ごす人のためにつくりました。
寝たきりでも寂しくないよう、日中は引き戸を開け放ち、隣室、廊下、デイルームが見渡せるようにしました。周囲を行き交う人と目線を合わせ、声や気配を感じられるようにしたのです。
この事業者は、「基準を守ってホームをつくったために、入居している人が、寂しい、孤立した生活をするのでは意味がない。だから、胸を張って基準を破っています」と語っていました。
そして、自治体もこの事業者の方針と、提供しているサービスの質を評価しているため、広さについて指導を受けたことはないといいます。
制度の運用とは、本来こうあるべきなのではないでしょうか。そこを事業者も、保険者も、そして利用者も考えることが大切です。
何のために、介護保険法ではこのように定めているのか。そこを十分理解して、複雑でわかりにくくなってしまった介護保険制度を使いこなしたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*介護度改善で報酬上げ 利用者の自立を評価(日本経済新聞 2017年9月7日)