■書名:認知症の人のイライラが消える接し方
■著者:植 賀寿夫
■出版社:講談社
■発行年月:2020年5月
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食後に「ご飯まだ?」、外に出たがる…。認知症介護のよくある悩みを人間関係で解決!
すぐに怒る、意味不明なことを言い出す、話を聞いてくれない。
介護現場で認知症のお年寄りのケアをしていると、さまざまな問題に向き合うことになる。
どう接すればよいかわからず、悩んでいる介護職の方も少なくないことだろう。
本書の著者は、介護福祉士やケアマネジャーとしての長い経験から、認知症の症状からくる問題の多くは、
人間関係を整えることで解決できると考えている。
そして、人間関係ができていれば、穏やかに過ごせる時間が増え、
困った症状が出たときにだけ「特別な工夫」をすればよいと話す。
その「特別な工夫」が著者ならではの認知症ケアであり、本書では事例と共に紹介されていく。
よくある事例で、具体的なアプローチを見てみよう。
食べたのに「ご飯まだ?」と言う人への対応
1.準備中と伝える
2.本当にご飯を出す
3.代替物を提供する
4.同調してみる
食事を済ませたばかりなのに、それを忘れて食事を催促してくるとき、介護者はつい間違いを正したくなるものだ。家族であればケンカになり、施設では人間関係が悪化してしまう。
著者はこのようなとき、「その人の”世界”に合わせて”納得”してもらわないといけない」と考える。
「1.準備中と伝える」場合では、認知症の人の世界に合わせることはできているものの、その場しのぎのウソであることは確かなので、気をつける必要がある。
また、これでおさまらないときには、他の方法に切り替えないといけない。
「4.同調してみる」は、著者ならではの方法だろう。
「○○さんもご飯待ってるんですか? 実は、僕もなんですよ」と「一緒に困っている人」になることが大切で、その人の気持ちに近い言葉を掛けながら寄り添っているうちに、収まりがつくことが多い。
また、「まだ?って言いに行ってくるわ!」とその場を離れると、本人だけになって考えが他に移り、自然に解決することもある。
「帰ります」と出ていく人への接し方
1.言葉でひきとめる
2.「頼りにしている人」に登場してもらう
3.タイミングをみてさりげなくガイド
4.帰るきっかけをつくる
5.関係ができていれば説得も可能
1や2のようにひきとめるのは、著者にとっては最後の手段なのだそうだ。
著者のグループホームでは、外に出たい人とはむしろ外出するようにしていて、
「外に出ても早く戻る」方針で対応しているという。
それで、「忘れ物してない?」とたずねることで時間を稼いだり、外を歩いていて本人に疲労感や不安が見えたところで、帰ることを促す声かけなどをしている。本人の気持ちの変化を読み取るのだという。
認知症の人と向き合う著者の姿勢は目を見張るもので、誰もがすぐに同じレベルのケアを目指すのは難しいかもしれない。しかし、著者が書いているように、「ケアのストックを増やすつもりで」読んでみることをおすすめしたい。
介護職として認知症の人と関わっていく上での、他では得難い気づきがあるにちがいない。
著者プロフィール(引用)
植 賀寿夫(うえ・かずお)さん
1979年、広島県生まれ。介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)。専門学校を卒業後、介護老人保健施設、デイケア、デイサービスなどを経て「みのりグループホーム川内」に管理者として入職、現在は施設長。自らも現場でケアに携わるほか、18年にわたる経験を活かして他施設での職員研修、地域の老人会、学校などで認知症の講座を担当している。