■書名:熊本地震 いのちを守る!老人総合福祉施設グリーンヒルみふね 全証言I
■著者:吉本 洋
■出版社:マネジメント社
■発行年月:2018年12月
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施設長と介護職の目線で振り返る「熊本地震で何が起こり何をしたのか」
阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震と、日本各地で大きな地震災害に見舞われながら、時間と共にいつのまにか危機感は薄らいで行ってしまう。
また、災害リスクに対する認識はあっても、実際に災害が起きたときに機能する対策を準備することは簡単ではない。
本書は、2016年4月の熊本地震の際に、熊本県上益城郡御船町にある老人総合福祉施設「グリーンヒルみふね」の中で実際に起きた出来事を、施設長である著書自身がまとめたものだ。
震災時の施設がどのような状況に陥り、職員たちがどのように対処したかが手に取るようにわかるので、介護施設の管理者はもちろん、スタッフの立場でも参考になるはずだ。
本書との出会いが真の災害対策を考える第一歩となることだろう。
著者の言葉をそのまま借りるなら、本書では主に
「どのようにしてあの危機を乗り越えることができたのか」
「どうやって物資を調達したのか」
「職員のモチベーションをなぜ維持することができたのか」
を知ることができる。介護や看護にあたる職員30人の証言も織り交ぜながら語られているので、臨場感があり心に響くものがある。
特に印象に残ったのは、施設長である著者が中心となって、職員の安全確保や生活環境整備のために奔走する姿だ。
著者は、「利用者の安全確保の大前提は、職員が安全に安心して勤務できるかどうかにかかっている」と考え、職員の自宅の被害状況次第では、施設に子や親を連れて家族ごと避難してくるよう指示を行った。
車中泊する職員や小さな子を持つ職員には、支援物資を利用する許可を出し、職員向けの炊き出しを行って食事環境を整えた。
食事のスペースでは、全国から支援のために訪れたボランティアとの交流が生まれてきて、職員がリラックスできる生活環境が少しずつできていったのだという。
こうした対応の背景には、施設長が過去の震災経験者から聞いていた体験談や教訓があるという。
震災からちょうど1週間が過ぎたころ、心身共に疲労困憊(こんぱい)する中で職員間に摩擦が起きたときにも、新潟県中越地震や東日本大震災を経験した方からの言葉を思い出しながら、強い気持ちを持って職員の心を束ねる全体朝礼を実施した。
<「職員が疲弊し始めるのがこの時期で、最も危険で配慮が必要な時期だ」と。その意味がこの状況を見てようやく理解できた。
私ができること。それは、こういう時期だからこそ、皆で乗り越えなくてはいけない。1人欠けると5人のお年寄りのお世話ができなくなる。つまり、この状況下では誰1人として欠けることは許されなかったのだ。>
この言葉には、東日本大震災を経験した介護施設の施設長から聞いた「職員は死んではいけません。職員が1人いないとお年寄りが5人亡くなります」という言葉が影響を与えているという。彼らのこうした教訓は、本書によってまた次の人々へと引き継がれていくことだろう。
本書はシリーズ3部作の1作目で、2作目では、地震後の復旧・復興に向けて何が問題になり、どのようにそれを解決してきたかが語られるそうだ。
介護施設でのいざという時に、介護職1人1人が自信を持って行動できるよう、参考にしたい1冊だ。
著者プロフィール
吉本 洋(よしもと・ひろし)さん
社会福祉法人恵寿会老人総合福祉施設グリーンヒルみふね施設長。熊本県御船町社会福祉協議会理事、御船町観光協会理事。1971年大分県生まれ。1996年株式会社ファミリーマート入社。2002年社会福祉法人恵寿会入社。2008年同法人グリーンヒルみふね施設長就任。熊本地震以降、全国で被災体験講演を実施する。