■書名:総介護社会――介護保険から問い直す
■著者:小竹 雅子
■出版社:岩波書店
■発行年月:2018年7月
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介護保険を丁寧に解説!2018年度改正にも対応した介護職必読の1冊
介護保険制度について、さまざまな基礎知識や現状、問題点などを解説した教科書的一冊。統計データを多く引用して解説のベースにしているので説得力がある。
すでに介護保険制度の中で働く介護職の人でも、驚くような事実を知ることになるかもしれない。
1章から5章までは、2018年度の介護保険制度改正を踏まえ、「介護保険を利用する人たち」、「介護現場で働く人たち」、「介護保険のしくみ」、「介護保険の使い方」、「介護保険にかかるお金」といった項目に沿って、最新の解説を展開している。
すでに介護の現場で働いている方や、介護職を目指している方には、2章の「介護現場で働く人たち」が興味深いのではないだろうか。
訪問介護に携わる「ホームヘルパー」と、介護施設で働く「介護職員」に分けて、それぞれの介護現場での現状や課題などが語られている。
介護現場ではホームヘルパーと介護職員のいずれも人材不足が深刻で、ホームヘルパーについては次のようなデータが紹介されている。
<ホームヘルパーは、介護福祉士(国家資格)かホームヘルパー養成研修(初任者研修)の修了者です。1991年から21年間で、養成研修の修了者は383万人にのぼります。しかし、実際にホームヘルプ・サービスの現場で働いているのは30万人で、1割に届きません。>
さらに、2010年に公表された『「潜在ホームヘルパー」の実態調査』によると、養成研修を修了したのに介護職として働いていない「潜在ホームヘルパー」のうち、すぐにでも働きたいと答えた人はたった5%。潜在ホームヘルパーのうち6割以上の人が「介護現場で働きたくない」と回答しているのだそうだ。
養成研修を終えて資格を手にしながら、多くの人が働きたくないと思う、その現実は重い。
介護施設で働く介護職員の場合でも、状況はあまり変わらない。収入や労働環境への不満は離職率の高さとして表れ、介護労働者全体で2007年度の離職率は22%。その後の対策により若干持ち直した2014年度でも離職率は16.5%だという。
介護現場では、安定的な人材の確保ができない状態が続いていることがわかる。
また、本書では、介護労働者による利用者への虐待の問題にも触れている。
介護労働者による虐待では、相談・通報件数が2011年度から増え始め、2014年度以降に急上昇しているそうだ。2016年度の相談・通報は1723件で、虐待が確認されたのは452件とのこと。その詳細は以下のとおり。
<サービス別にみると、特別養護老人ホームや認知症グループホームなど、24時間のサービスを提供する事業所での虐待が8割を超えています。加害者は介護職員が8割で、30代が20%、40代が19%です。また、6割が男性になります。被害者は870人で、寝たきりと認知症の人が多く、7割が女性です。>
ショッキングな数字ではあるが、事実として受け止めることが大切ではないだろうか。近年起こった殺人事件では、大きな社会的関心を呼ぶこととなったが、加害者個人の特異性で終わらせてはいけない問題なのだ。
全体を通して、詳細なデータを一つ一つ示しながら解説してあり、介護保険制度をていねいに学びたい人に向いている。
介護職に就いている方、介護職を目指している方なら、共感しながら読み進めることができるだろう。
著者プロフィール
小竹 雅子(おだけ・まさこ)さん
1956年生まれ。北海道出身。1981年、「障害児を普通学校へ・全国連絡会」に参加。1998年、「市民福祉サポートセンター」で介護保険の電話相談を開設。2003年より「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」を主宰。メールマガジン「市民福祉情報」の無料配信、電話相談やセミナーを企画。著書に『こう変わる!介護保険』、『介護情報Q&A』、『もっと変わる!介護保険』などがある。