■書名:ちょっと気になる医療と介護
■著者:権丈 善一
■出版社:勁草書房
■発行年月:2017年1月
>>『ちょっと気になる医療と介護』の購入はこちら
介護職の仕事の根幹にある社会保障制度を、正しく理解するための入門書
2025年問題をご存じだろうか。2025年は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる年で、日本は4人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎える。
そうした社会の到来を目前にして、医療や介護の分野は今、社会保障改革の本丸と位置付けられている。
混合診療、ジェネリック医薬品、健診と予防、健康増進など様々な対策が話題になっているが、著者の権丈さんは、提供体制の改革、つまり、地域包括ケアの構築が必要であると主張している。
著者の研究分野は、年金・医療などの社会保障政策であり、これまで社会保障審議会や社会保障制度改革国民会議などの委員を歴任してきた。
それらの会議での報告書や多くのデータを引用しながら、日本の医療と介護が何を目指して改革されているのかを説明している。
<いま、医療提供体制の改革が進められているのは、「高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消する」ためです。そうした改革が進められるのと同時進行で、「医療」という言葉そのものの意味も、かつてのような「救命・延命、治癒、社会復帰を前提」としたものから、「病気と共存しながらQOL(Quality of Life)の維持・向上を目指す医療」へと変えざるを得ない状況になってきました。そして、医療をQOLの維持・向上とみなすと、医療と介護の境目はなくなり、「医療と介護がQOLの維持改善という同じ目標を掲げた医療福祉システムの構築」が今の時代に要請されることになっていくんですね。>
この考えが、住み慣れた地域で介護や医療、生活支援サポートやサービスを受けられるよう市区町村が中心となって、「住まい」「医療」「介護」「生活支援・介護予防」を“包括的に”体制を整備していく。すなわち地域包括ケアシステムの構築へとつながっていくのだ。
国主導の政策ではなく、それぞれの地域で、その場に見合った医療(ご当地医療)と介護が、車の両輪のように協議して連動させるシステムが構築されていくことが、著者の考える、目指すべき医療と介護の提供システムだ。
そして、このシステム構築のための財源をどこに求めるべきなのかについても言及。
累進課税の仕組みと日本の所得税の実情を詳しく解説した上で、財源は「すべての税目を増税するプラスα」の形で確保するべきであると著者は主張している。
この主張は一見、低所得者層への負担を強いているようだが、高所得者の人数が少ないために、所得税で賄うことは難しいことが丁寧に説明されている。
本書を読むと、目先の生活の安定のために増税反対を唱え続けることが、長い人生を最後まで安心して過ごすために得策であるのかどうか、考えさせられる。
本書は、冷静に正しく社会保障について理解するのに格好の入門書である。介護職にとっては、仕事の根幹をなす社会保障制度をきちんと理解する機会を与えてくれるはずだ。
著者プロフィール
権丈 善一(けんじょう・よしかず)さん
慶應義塾大学商学部教授。商学博士。1962年福岡県生まれ。1985年慶応義塾大学商学部卒業、1990年同大学院商学研究科博士課程修了。
社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議などの委員や、社会保障の教育推進に関する検討会の座長を務める。
主な著書に「ちょっと気になる社会保障」「医療介護の一体改革と財政――再分配政策の政治経済学Ⅵ」など。