■書名:認知症の家族を支える ケアと薬の「最適化」が症状を改善する
■著者:髙瀬 義昌
■出版社:集英社
■発行年月:2017年2月
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6種類以上は認知症の症状悪化に?介護職も知っておきたい多剤併用の危険性
高齢者の5人に1人が認知症になる時代が近いという。
もはや誰にとっても他人事ではない認知症だが、私たちの理解はいまだに限定的で、「認知症は、なってしまったら終わり」といった絶望的なイメージが定着したままになっているようだ。
著者の髙瀬医師は、長く在宅医として認知症医療の最前線に立ってきた。
本書は認知症を正しく理解するための情報だけではなく、適切なケアや薬によって認知症の症状が改善する可能性があることを教えてくれる。安心と希望が見えてくる一冊だ。
認知症についての理解の第一歩は、「認知症は、病名ではなく症状」と知ることだろう。
<認知症とは、アルツハイマー病や脳血管障害、レビー小体型、前頭側頭葉変性症(ピック病ほか)といった原因となる疾患(病気)があり、それによって言葉を自由に操る・計算する・自分のいる状況を正しく把握するなどの認知機能が低下・喪失し、生活力が失われた状態が長く続いている「症状」のことをいいます。>
認知症につながる病気は、脳の退行変性疾患、内科的疾患、感染性疾患、腫瘍性疾患などのジャンルに分かれ、合わせて70以上もあるのだそうだ。
あまりにも症例が多いために、認知症をひきおこしているのが何の病気なのかわからない場合も少なくない。
大切なのは、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症のように脳の神経細胞がゆっくり変性・死滅していく病気であっても、症状を維持したり、進行を遅らせたり、ある程度まで改善したりする可能性があるということ。
この事実は、希望を持って受け止めたい。薬の服用やケアを適切に行うことで、症状の改善が期待できるというのだ。
ただし現状では、薬が原因で、効果が出ないどころか症状を悪化させていることも多いのだという。
薬が症状悪化の原因となるのは、まず、認知症をひきおこしている病気が特定できず、そのために不適切な薬が処方されている場合。
次に「多剤併用」で、病気ごとに処方された多量の薬を飲み続けている場合が挙げられる。飲み合わせが悪いと副作用が出るためだ。
著者は、特に多剤併用を問題視し、さまざまな研究報告や自身の経験にもとづいて、自信を持ってこう断言している。
<6種類以上の薬の服用が多剤併用の目安であり、すぐにでも薬の整理をして5種類以下に減らすべきであるといえます。>
実際に薬の数を減らす取り組みをしてきた著者は、症状が劇的に改善した例をいくつも見てきたという。
本書でも、怒りっぽい症状がすっかりなくなった人、ほとんど寝たきりの状態からつかまって歩けるようになった人などの例があげられていて、そこには希望が見える。
在宅医ならではの経験から提言する、在宅医療のあり方についても具体的だ。
薬の最適化と合わせて、実際に薬を管理し服用を見守る家族や、医師、薬剤師、ケアマネジャーなどの介護職がチームとなって機能すれば、症状が改善する可能性は広がっていくのだという。
今も約350人の患者を診ている医師の言葉には、説得力がある。
著者プロフィール
髙瀬 義昌(たかせ・よしまさ)さん
1956年生まれ。医療法人社団至高会たかせクリニック理事長。信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、2004年東京都大田区に在宅医療を中心とした「たかせクリニック」を開業。著書に『これで安心 はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法 本人も家族も満たされる在宅平穏死』『認知症、その薬をやめなさい』など。