■書名:嚥下障害のことがよくわかる本 食べる力を取り戻す
■監修:藤島 一郎
■出版社:講談社
■発行年月:2014年9月
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嚥下障害を知って、見つけて、食べる力をアップさせるための一冊
嚥下(えんげ)障害とは、口からうまく食べられない状態のこと。
噛めない、飲み込めない、むせてしまうなどの障害は、高齢になると起こりやすいもので、介護に携わる人なら無縁ではいられない問題だ。
本書の第1章では、まず「口から食べること」の意義について詳しく語られている。
口から食べることで得られるのは、栄養摂取だけではない。「食べたい」という人間の根源的な欲求を満たすことができるのだ。
また、大きな満足感が得られること、食べる行為が五感を刺激して脳を活性化させること、消化管の活動がさかんになることなどのメリットがあるという。
「口から食べること」を簡単にあきらめることのないように、との言葉が温かい。
<おいしいものを食べ、飲み、味わうことが、人生に大きな喜びをもたらすものであることは言うまでもありません。病気や加齢などの影響でうまく食べられない状態になっても、「口から食べないようにする」という選択肢を選ぶ前に、できることはいろいろあります。安易な判断で人生の喜びを捨て去ることがないように、食べる力の維持、回復をはかっていきましょう。>
嚥下障害は、低栄養や誤嚥(ごえん)による肺炎などにつながる危険があり、見逃されて放置されていると命にかかわる。
本書では、できるだけ早い段階でそのサインに気づけるように、嚥下障害のチェックシートが用意されている。イラストや簡潔でわかりやすい説明が添えてあるので、専門的知識がなくても簡単にチェックできるのがうれしい。
さらに、飲み込む力を確かめるために、「30秒間でつばを何回飲み込めるか」のテストも紹介。こちらも家庭や介護の現場で手軽にできるものだ。
摂食嚥下リハビリテーションとして、食べる力をアップさせるための体操や訓練についての解説も充実。
たとえば下記のようなものが紹介されている。
・口の動きを改善するための顔のマッサージ
・飲み込みを促すための、のどのアイスマッサージ
・食べるための筋力を鍛えるさまざまな訓練 など
またそれらに加えて、監修者考案の「藤島式嚥下体操」が紹介されている。
どのページもイラストや図表がふんだんに使われ、ポイントを押さえて取り組みやすい内容となっている。
「安全に食べる」という観点からも、食べるときの姿勢、誤嚥を防ぐ食べ方、おすすめの食品や調理の工夫などがきめ細かく説明されている。
介護する際に必要になることを、もれなく網羅しているといえるだろう。
最終章では、口から食べられなくなった場合の経管栄養について取り上げている。
「口から食べることをすぐにあきらめない」という姿勢を貫きながら、現実的な障害との向き合い方のアドバイスも忘れていない。
この一冊で、バランスよく嚥下障害を知ることのできるだろう。
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監修者プロフィール
藤島 一郎(ふじしま・いちろう)さん
浜松市リハビリテーション病院長。東京大学農学部で森林植物学を学んだのち、浜松医科大学医学部に進学し卒業。その後東京大学でリハビリテーションを学ぶ。聖隷三方原病院リハビリテーションセンター長などを経て現在に至る。日本脳神経外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医・専門医。日本嚥下医学会理事長。摂食嚥下障害リハビリテーションの第一人者として活躍している。