■書名:老人介護 じいさん・ばあさんの愛しかた
■著者:三好 春樹
■発行元:新潮社
■発行年月:2007年12月1日
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年をとるほど個性豊かになる!? 利用者との笑えるエピソード満載の介護エッセイ
本書は、「生活とリハビリ研究所」を設立し、各地で介護に関する講演活動などを行う著者の三好春樹さんが、これまでのさまざまな介護経験をつづった本だ。本書に登場する老人は、みな個性豊かな人ばかりだ。
たとえば、かつては名家出身のお嬢様であった利用者。ホーム入所後もお嬢様気質が抜けない彼女は、常にマイペースで周囲を振り回していたという。
またある利用者は、施設に訪れた慰問グループを涙で歓迎していた。しかし、彼らが帰ったあとは「下手だった」とバッサリ。慰問グループが抱いている「(施設で慰問を待っている)かわいそうな老人像」を演じていたのだそうだ。
その他、主任指導員に恋心を抱き、ラブレターを渡す利用者の話や、16年半入浴しなかった利用者が入浴した時のエピソードも登場する。
よく、年をとると、人格が完成されるため、性格が穏やかになり、丸くなるとも言われる。しかし、三好さんは「人間が丸くなるどころか、人格が完成するどころか、年をとると個性が煮詰まる」と語っている。真面目な人はますます真面目に、頑固な人はますます頑固に、といった具合だ。介護の現場で働く人の中にも、そのことを実感している人がいるのではないだろうか。利用者の困ったクセも面白い性格も含め、文章の端々には、三好さんが彼らを愛して止まない様子がにじみ出ている。
本書の中には、介護に向き合うスタッフたちの話もある。
施設で一生懸命に仕事に取り組み、休日もボランティアで介護に携わる女性がいたという。熱心に仕事していたにも関わらず、最後に彼女は
「施設の利用者には感謝の心がない」という理由で仕事を辞めてしまう。"不幸なお年寄りを一生懸命介護する自分"像が崩されたことが原因のようだ。このエピソードを元に三好さんは、感謝の心を期待しているような人は、介護の仕事は続かないと語る。
また、中には動かない自分の体に苛立ち、暴力を振るう男性の利用者がいた。そんな彼に対して、わざと挑発して、不能な体を冷やかすなどの行動をとる女性スタッフがいたという。とても福祉施設職員にふさわしいとは思えない行動だが、不思議とその利用者は彼女に心を開いたという話も収録されている。
利用者と接するにあたって、笑顔も大事、まごころも大事だ。その点について三好さんは、下記のように語っている。
<本当のまごころが相手に通じるということは、とてもきれいごとじゃないんだ、と。自分のまごころが相手を変えてやろうという、その意図そのものが、老人の反発を呼ぶのである。そこには、今あるがままのあなたは、本来の人間の姿ではないから、早く人間らしい人間になりなさいよ、という、自分の人間観、老人観へ相手を誘導し閉じこめようとする気持ちが無意識のうちにあり、それが老人の心を開かせないのだ>
本書では、病院で入院しているうちに、症状が悪化した利用者が施設に入所したことにより、症状が改善した話も複数紹介している。
ある利用者は、おむつを着け、動くこともできなかった。しかし、ベッド横にポータブルトイレを設置しただけで、自分からトイレに行くようになり、1週間で生き生きとした表情を取り戻したという。また、立つことが困難だったある利用者は、レクリエーションで他の利用者からの声援を受けることで、立つことができるようになった。
これらの回復の源となったのは「目的を持つこと」。利用者の意欲をそぐことなく、適切なケアを行うと利用者・介護をする側双方によい影響を与えられるようだ。
この他、「効率重視で動いていても、利用者はそれに合わせてくれない。(介護者の)動作を利用者に合わせる方が効率的」といった、実際のケアに役立つヒントも掲載されている。
ユニークな利用者の豊富なエピソードを読み終わった後は、介護の仕事に対して前向きに向き合えるのではないだろうか。
<松原 圭子>
著者プロフィール
三好 春樹(みよし・はるき)さん
広島県生まれ。高校中退後数々の職業に就き、24歳で特別養護老人ホームに生活指導員として勤務。31歳で理学療法士の資格を取得。35歳で独立し、「生活とリハビリ研究所」を設立する。現在、各地の通所施設や在宅訪問に関与しながら、年間200回の講演活動を行っている。