毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「認知症の人に対する家族の責任」という話題を紹介します。
家族の賠償責任は? 最高裁が判決へ
未曾有の高齢化が進行する中、いま日本では、認知症の増加に対する何らかの施策や、認知症への理解を促す取り組みが求められている。厚生労働省が2015年に発表したデータによれば、認知症の高齢者数は2012年時点で462万人、高齢者のおよそ7人に1人が認知症。同省は、2025年には認知症患者が700万人(5人に1人)になると予測している。
そんななか、認知症患者を持つ家族にとって、見過ごすことのできない裁判の判決が3月1日に下される。
2007年、愛知県に住む91歳の認知症の男性が徘徊し、列車にはねられて亡くなる事故が発生した。事故後、JR東海は損害賠償を求めて提訴し、1審の名古屋地裁は、遺族に対して720万円の支払いを命じる判決を下した。そして2審の名古屋高裁は、遺族への支払額を360万円に減額。JRはこの判決を不服として最高裁に上告し、その判決が3月1日に下されるのだ。
介護者は今回の裁判をどう感じている?
こうした判決が、安倍晋三首相が目指す「介護離職ゼロ」に真っ向対立するものであるという意見もある。1審で名古屋地裁は、目を離した妻と監督者としての長男に対し、「徘徊は予見できた」「徘徊を防ぐ適切な処置を怠った」と述べた。しかし、これに対し、認知症の90代の祖母を自宅で介護している男性は、憤りを隠さない。
「ウチは自営業なので、妻と2人で祖母の面倒を見ているのですが、四六時中見ているのは絶対に無理です。しかも家のすぐ近所には踏切もあります。もし祖母がうっかり外に出て電車に轢かれてしまい、悲しみにくれているところにいきなり数百万円の賠償を命じられたら…
認知症の家族を持つ身にしてみれば、裁判所の言うことは『認知症患者は施設に入れろ』、『それができないなら座敷牢に閉じ込めておけ』としか聞こえません。現実を無視しているとしか思えません」
JR側で実際に損害が発生しているのは事実であり、人身事故などでも同様に損害賠償を請求しているという。
認知症が急速に増えていく中で、今回のようなことは今後も起こりうる。今回の裁判結果が判例となり、今後同様の事故に影響を与えていくことは間違いないだろう。また遺族に賠償を求めることができないという判決が下されれば、鉄道会社はいずれその分を運賃に転嫁することになるかもしれない。
裁判所が、どのような判決を下すのか? 462万人の認知症高齢者の家族の目が、最高裁判所に集まっている。
介護職にとっても、今回の判決の行方は注目だ。