毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「見えないものが見えるのも認知症」という話題について紹介します。
「見えない何かに話しかける義母」まさか認知症だとは…
認知症というと、一般の人は、「食べたことを覚えていない」「家族や友人のことが分からない」「同じことを何度も言う」「一人で家に戻れなくなる」といった行動を想像することが多い。主に、記憶障害に関連したものだ。
しかし認知症の中には、「見えないものが見える」、という症状も存在する。認知症について学んでいる介護業界の人たちであれば、よくご存知だろうが幻覚の一種である「幻視」だ。この症状がよく見られるのは「レビー小体型認知症」である。
厚生労働省のホームページに掲載されている説明によると、レビー小体型認知症は「アルツハイマー病とパーキンソン病の特徴を併せもつ疾患」と記されている。
一般的には、認知症=物忘れというイメージが強い。しかし、レビー小体型認知症では、物忘れよりも幻視の症状が現れることが多い(特に初期の段階)のだ。
小人、子ども、虫、ヘビ、小動物、犬、猫、さらに成人の人間が見えることもあるという。
83歳の義母がレビー小体型認知症と診断されたAさんは、この病気を知らなかった人の1人だ。
義母はある時期から、「見えない何かを触る・押す・潰す・つまむ」「あたかも周囲に虫などが飛んでいるかのように突然手を振り払う」「ブツブツと見えない何かに話しかける」といった行動をするようになった。
Aさんは、その度に「何してるの?」「虫なんかいないわよ」「何に話しかけてるの?」と聞いていたが、義母は「○○がいた」「○○がベッドの下に…」「身体に虫が…」など、Aさんには見えない何かを「見えた」と言うばかり。
しかし義母は物忘れなどがまったくなかったため、Aさんは義母が認知症だとは思わず、結果的に受診が大幅に遅れてしまったという。
「幻視」の症状例と家族の悩み
インターネットの掲示板で、レビー小体型認知症についての悩みを相談しあう書き込みを見ると、
「天井から人が覗いてるとか電気がチカチカしてる等と言い出し…」
「猫がいる~いる~って言ってる」
「夜、寝ていると黒い影みたいな女の人が見える」
「毎日見えない誰かと会話」
「鏡に向かってブツブツ話かけてます」
「壁が割れるとか、羽のついた人がいるとか。魚がいる??とか」
など、幻視のパターンは様々のようだ。中には、
「知り合いが見える幻覚はまだいいが赤の他人が見える幻覚だと、泥棒が入ってるから警察行くとかになるのが面倒」
といった悩みも寄せられている。
先述のAさんは、その後レビー小体型認知症に対する理解を深め、適切な治療や対応によって義母の症状もかなり改善したが、一時は「義母は精神病ではないか」と、思ったこともあったとか。恐らく世の中の大半の人は、レビー小体型認知症を知らないものと思われる。
認知症により幻視が現れることがあることは、もう少し周知されても良さそうだ。