この連載の最後は、「介護サービスの費用負担」とは別に、介護保険料の値上げについてお話します。40歳を超えると要介護か否かに関わらず、必ず払わなくてはならない「介護保険料」。2000年に介護保険制度が始まって以来、第1号被保険者*が、毎月徴収される介護保険料は、3年ごとの改正により、どんどん高くなっています。
今回は、料金はもちろん、支払いの基準となる所得の分け方自体を変更しています。その内容を、高野龍昭先生に解説してもらいました。
*第1号被保険者とは、市町村内に住所がある65歳以上を指します。
<監修・解説:東洋大学 准教授 高野龍昭 / 文:三輪泉(ライター・社会福祉士)>
水準を決める所得の段階を6から9に細分化
第1号被保険者の介護保険料は、当初から、所得により段階を設け、「低所得者の保険料負担を軽減」し、「所得が高い、あるいは資産のある高齢者の負担を大きくする」形で決められてきました。
今回の改正では、それをさらに強め、低所得者にはやさしく、高所得者には負担を増大させることになります。
2012年度から2014年度の介護保険料は、利用者の所得を6段階に分け、1を基準とし、0.5から1.5までの比率で支払うことになっていました。
この段階を、2015年4月から、9段階にします。そして、0.5~1.5だった比率を、2019年までに0.3~1.7になるように、幅広くします。
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新第1段階…生活保護被保護者。または世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者。または世帯全員が市町村民税非課税で、本人の年金収入等が年額80万円以下
新第2段階…世帯全員が市町村民税非課税で、本人年金収入等が年額80万円以上~120万円以下
新第3段階…世帯全員が市町村民税非課税で、本人年金収入等が年額120万円超
新第4段階…世帯に市町村民税課税者がいるものの、本人が市町村民税非課税であり、年金収入等が年額80万円以下
新第5段階…世帯に市町村民税課税者がいるものの、本人が市町村民税非課税であり、年金収入等が年額80万円超
新第6段階…本人が市町村民税課税者であり、合計所得額が年額120万円未満
新第7段階…本人が市町村民税課税者であり、合計所得額が年額120万円以上190万円未満
新第8段階…本人が市町村民税課税者であり、合計所得額が年額190万円以上290万円未満
新第9段階…本人が市町村民税課税者であり、合計所得額が年額290万円超
*具体的な軽減措置は各割合の範囲内で市町村が条例で規定。
新1~3段階は公費投入、2回に分けて軽減措置
上の図でわかるように、新しい第1~3段階は、2014年までより、利用者の自己負担が少なくなっています。これまでの保険料と比べて不足する分は、公費(税金)で補填されます。
ただし、一番軽減率の高い新第1段階(旧第1・第2段階)は、いきなり0.5から0.3になるわけではありません。
2015年4月 0.5→0.45 2017年4月 0.45→0.3
と、2回に分けて軽減します。また、新第2・第3段階は、2017年にはじめて、それぞれ0.75→0.5、 0.75→0.7 となります。
今回の軽減はほんの少し。というのも、消費税増税が先送りになったことが関係しているようです。しかし、値上げ部分はバッチリ決行されます。
第7・9段階の人たちは、2015年4月から介護保険料の「値上げ」が行われます。特に、第9段階は、新たに開設された段階。負担の割合も大きくなっています。
所得290万円以上の人には大打撃!
介護保険料は自治体によって多少の違いがありますが、2014年度の全国平均は、月額4972円(基準額)。
所得290万円以上と推定される新第9段階にあたる人は、
これまでは基準×1.5、たとえば月額7458円の介護保険料を支払っていました。
しかし、
今後は1.7になりますから、月額8452円。1000円程度値上がりすることになります。年間で見れば、1万1928円、それなりに大きな額です。
逆にもっとも減るケースだと、いままで基準×0.5、つまり
月額2486円だったのが、2017年には0.3になるので1491円となります。年間で見ると、1万1933円の負担軽減です。(ただし、保険料基準額は2015年4月分から各市町村で見直され、ほとんどの自治体で数百円程度の増額が見込まれますので、このとおりに軽減されるわけではありません。)
厚生労働省側は、「新第1~4段階の軽減分と新6~9段階の増加分が、全国ベースでは均衡になるよう設定する」とのことです。となれば、この第9段階の人たちが、低所得者層をかなりの部分、支えることになると言えそうです。
介護サービスの費用負担も増える中、これまでギリギリなんとか生活してきた、という人にとっては、月数百円の出費が増えても、それなりに厳しくなります。
とはいえ、もう止めることはできません。介護保険料改正は、介護サービスの費用負担の増大より早く、早速2015年の4月から施行されます。
高齢者の生活を支援するために生まれた介護保険制度ですが、時代の流れに従って財源が厳しくなり、支援側のルールや支援の形・条件はどんどん変わり、そして複雑化するものも多いようです。限られた財源の中からどう割り振るのか、値上げ幅はどれぐらいにするのか、策定する人たちも、緊張感を持って検討してきたのだろうと思います。
しかし、実際に困ることが起きるのなら、利用者側も声をあげねばなりません。
公的なサービスをただ受けているだけでなく、今後は利用者や介護保険事業者がサービス作りに参加するぐらいの気持ちで、制度をよく把握し、意見を言っていくべきだと思います。
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●こちらの記事も参考に
→介護職なら知っておきたい!2018年度介護保険改正で介護医療院を新設
→次回、2018年の介護保険改正はどうなる?全員2割負担、市町村の指導…
プロフィール
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授
高野龍昭(たかの・たつあき)
社会福祉士・介護支援専門員。医療ソーシャルワーカーと高齢者分野の社会福祉士の業務を経て、‘94年に介護支援専門員(ケアマネジャー)に。通算19年の相談援助の現場実践を重ねたあと、’05年より東洋大学で教員に。著書に『これならわかる<スッキリ図解>介護保険 2015年速報版』(翔泳社)など。
3月には『速報版』をさらに詳しく論じた『これならわかる〈スッキリ図解〉2015年完全版(仮)』(翔泳社)が出版予定。