2015年度の介護保険制度改正で変わる、利用者の費用負担アップについて解説する第4回目。2015年の改正で、利用者さんにとってもっとも大きく金額がアップするのは、今回の内容かもしれません。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などに入居やショートステイした場合の、居住費(滞在費)や食費の見直しです。
これまで負担が軽減されていた人が、軽減の対象からはずれ、驚くほど金額がアップするケースが続出しそうな気配。毎月の費用のことですから、まさに死活問題です。
特養・老健・療養病床などの事業者の方は、ショートステイも含めて、利用者さんに該当する方がいないかどうか、あらかじめ必ず抑えておきましょう。
内容が少し複雑なので、2回に分けて解説します。解説するのは、東洋大学 准教授の高野龍昭さんです。
注=補足給付は、介護保険の第1号のほか第2号被保険者も対象となっており、今回の「厳格化」も対象となります。(2号被保険者が対象外なのは「介護保険が1割負担から2割負担になる」点です。)
<監修・解説:東洋大学 准教授 高野龍昭 / 文:三輪泉(ライター・社会福祉士)>
知っていますか?介護施設の食費・居住費の負担が軽減される制度
そもそも、今回の改正で、「施設の居住費や食費がすごく高くなる!」のは、なぜでしょうか? それは、急に値上がりするのではなく、以前からあった居住費や食費の負担を軽減する制度の条件が変わり、制度の対象外になる人が続出することから起こる問題です。
そこで、まずはどんな制度なのかから、説明しましょう。
介護保険では、2005年から、介護保険3施設(特別養護老人ホーム・老人保健施設・療養病床)の費用のうち、食費や居住費(滞在費 *光熱水費+室料)については、介護保険の給付外となり、本人の自己負担が原則となりました。
たとえば
特養のユニット式個室で生活する場合、1日あたり3350円かかります(居住費1970円+食費1380円)。30日生活すると、10万500円。これは平均の数字ですから、それより高い施設もあります。
もちろん、かかるお金はこれだけではありません。別途、介護保険サービス利用時の1割負担もあります。また日用品の購入、電話代や理美容などにかかる費用も。トータル十数万円の負担は、収入の少ない世帯では難しいのが現実です。
さらに、夫婦世帯で妻が入居し、夫は在宅と分かれて生活する場合は、夫が在宅で食費や光熱費その他生活のための費用を払い、妻の分は特養に支払うことになります。2世帯分の費用が必要ということですね。
そこで、負担軽減制度があるのです。「特定入所者介護サービス費」と呼ばれ、特養などの入居、ショートステイに関して、居住費と食費を対象に、補足給付を支給します。所得段階に応じて自己負担の上限額が決められており、それを上回る額が給付されます。
施設の種類や契約内容などによって、条件や金額などが多少異なりますが、特別養護老人ホームの場合、おおむね以下のような上限金額になります。
この条件は、
特集の第2回目で説明した2割負担になる条件と、大きく異なります。混同してしまわないように、それぞれの条件をきちんと理解してくださいね。
●現在の特養の1日あたり居住費・食費<負担軽減の段階別> 2014年7月まで
*2015年4月の介護報酬改定の際、この金額なども見直しが行われるが、基本的なしくみは同様。
補足給付を利用できる条件が変わる!
表を見てわかるように、この負担軽減制度の恩恵を受けるのは、低所得者の利用者さんですが、この条件が厳しくなっています。
今までは利用者本人の年間(前年)の所得を見て、対象になるかどうかを決めていました。しかし2015年夏の改正で、
「所得や年金収入が低くても、資産のある人、ほかの年金がある人、そして配偶者の所得が高い人などは、補足給付受給の対象にならない」ことに決まりました。
ここが、注意のしどころなのです。
昨年まで、「あの利用者さんは、負担の影響は受けない」と思っていた人たちが、軽減制度をはずされ、居住費や食費がドーンと跳ね上がってしまう場合があるのです。
また、所得が少ない人でも、資産などの要件がプラスされることになったので、預金をたくさん持っていると、跳ね上がります。すると、支払いが大変になり、退去を考える人も出てきそうです。
どんな人がこの制度の影響を受けるのか。把握するためには、少し利用者さんの生活や資産に目を向けねばなりません。
事業者は、利用者にどれぐらいの所得があるか、預金は多いのか、配偶者の所得が多いのかなどは、プライバシーの問題として、把握していないことが多いのではないでしょうか? でも、そんなことは言っていられません。高額の値上げで、生活が立ち行かなくなり、退去を考える入居者もいるかもしれません。入居者のためにも、事業のためにも、事前に、情報収集をして、対策を練っておかねばなりません。
もともとこの補足給付が受けられるのは、以下の施設を利用する場合です。福祉の観点で設けられた介護保険施設が対象となっているため、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、認知症グループホームなどは対象外です。
・特別養護老人ホーム (特養)
・介護老人保健施設 (老健)
・介護療養型医療施設 (療養病床)
・地域密着型介護老人福祉施設 (施設の所在する市町村内に居住する者のみが利用できる定員29人以下の特養)
・短期入所生活介護 (予防も含む・特養でのショートステイ)
・短期入所療養介護 (予防も含む・老健・療養病床でのショートステイ)
次回は、いよいよ、その
補足給付の見直しの内容について、具体的に詳しく解説します。
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●こちらの記事も参考に
→介護職なら知っておきたい!2018年度介護保険改正で介護医療院を新設
→次回、2018年の介護保険改正はどうなる?全員2割負担、市町村の指導…
プロフィール
東洋大学 ライフデザイン学部 准教授
高野龍昭(たかの・たつあき)
社会福祉士・介護支援専門員。医療ソーシャルワーカーと高齢者分野の社会福祉士の業務を経て、‘94年に介護支援専門員(ケアマネジャー)に。通算19年の相談援助の現場実践を重ねたあと、’05年より東洋大学で教員に。著書に『これならわかる<スッキリ図解>介護保険 2015年速報版』(翔泳社)など。
3月には『速報版』をさらに詳しく論じた『これならわかる〈スッキリ図解〉2015年完全版(仮)』(翔泳社)が出版予定。